PROFILE
淡野将太です。専門は心理学です。琉球大学で准教授を務めています。
Syota TANNO Ph.D., Associate Professor, University of the Ryukyus, Japan.
Curriculum Vitae
淡野 将太 (2025). 小学校における宿題と成績の関連から指導と評価を考える 指導と評価, 843, 56-57. (Tanno, S. (2025). Homework, academic achievement, guidance, and evaluation in elementary school. Educational Evaluation and Guidance, 843, 56-57. In Japanese.)
Tanno, S. (2024). Sabbatical experiences and beyond: Enrichment and integration in psychology research and education. Bulletin of Faculty of Education University of the Ryukyus, 105, 71-74.
2021-07-29
7月の総括
2021-07-26
Apple Silicon M1搭載iMacに愛着
Apple Silicon M1搭載のiMac(i.e. iMac, M1, 4.5K Retinaディスプレイモデル2021)を使い続けて愛着が湧いてきた。このPCは軽量で配置のアレンジがしやすい。一見すると薄い板である。画面の角度を変えるタイミングで薄型の本体に触れていると手に馴染んで愛着が湧いてきた。画質も音質も良い。良き。
2021-07-22
レトルトカレーの食べ比べとおすすめ
2021-07-19
将棋文献のreview:NHK将棋講座2013年10月号 - 2021年6月号
将棋世界に続いてNHK将棋講座のreviewを行なう。「将棋世界」と比較すると「NHK将棋講座」は一般向けの趣が強く記述は端的である。タイトルや段位は当時のものを採用している。今回も引用が大半で著作権のポイントとなる主従関係は逆転しているが,著作権を侵害する意図は全くなく,この雑誌が連綿と価値ある知見を提出し続けていることを紹介する。また,私のサイト全体で見た時にはこの問題点はクリアできているというのが私の認識である。面白いと思ったなら原本を参照して欲しい。
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NHK将棋講座2014年5月号
「久保九段 これも師匠から直接聞いた話なのだが,「君は本当に将棋の才能がなかった」とよく言われた。確かにそうだろう,19枚落ちで勝てない私に才能があったはずもない。ただその後に「でも飽きずに延々と同じことができる才能はあった」とも言われた。」
私にとっての将棋文献の継続的講読は専門職における適性の論考と同義である。
NHK将棋講座2014年5月号
「観戦記・小倉克洋 丸山忠久VS郷田真隆 後日,郷田と電話で話した。「終わった直後はフワフワした感じだったが,いただいた花を見ていると喜びが湧いてくる。若いときはいくらでもチャンスがあると思っていたけれど,最近はちょっと縁がないのかと思い始めていた。前期の羽生戦も,だいぶ良かったのに逆転されて,もどかしい思いがあった。受け取ったトロフィーには,46年前に優勝した師匠の名前(大友昇九段)も刻まれていて嬉しかった。来期もまた頑張りたい。」
準優勝の丸山は,終局後の談話がふるっていた。「昔はファンの方におめでとうと言われることが多かったが,この頃は頑張ってくださいが多くなった。今日は負けはしたけど,指したい手がさせたので悔いはありません。」」
チャンスを活かすことは重要だ。管見の限りではビジネスも稼げる時に稼いだ方が良いという知見で一致している。したいことはできる時にする,という考えに到達した時,私は人生について考えた。そして,美味しいものを美味しいと思える時に食べ,行きたい場所に行けるうちに行く人生にすることに決めて現在に至る。
NHK将棋講座2014年6月号
「色紙では,もう一つ,心に残っている場面がある。花村先生が何十枚と色紙を書かれておられるとき,そばにいた後援者の方が「先生は一枚一枚,随分と丁寧に書かれますね」と言われた。私もそう思っていた。その言葉に花村先生は「書くほうは何十枚でも,受け取るほうは一枚だから」と,答えられた。この花村先生の言葉の重みは,年齢を重ねるほどに感じる。すごい言葉だと思う。」
私は同意する。色紙を書いたことはほとんどないが,大学教員という職は程よい緊張感がある。間違った知見をレクチャすればそのまま学生が誤解することになるし,寝坊すればそのまま学生の時間を潰してしまう。キャリアを開始した時はかなり緊張したし,慣れた今でも幾分か緊張する。
NHK将棋講座2014年8月号
「畠山鎮七段 時は流れて34歳のころ弟子志願の手紙があった。10歳の斉藤慎太郎(現五段)だった。いつもなぜかスター棋士ではなく私の指導対局を受けにくるので知っていた。すでに大人の大会で入賞を重ねていたのだが,私は谷川浩司九段に「こんな幼い子供の師匠になる自信がない」と相談した。谷川先生は「子供なりに考えて手紙を出したのだから縁を大事にして引き受けたらいいよ」と優しくおっしゃった。奨励会幹事時代に何人かの棋士に私も同じセリフを言って感心されたが,私の言葉ではないことをここに白状いたします。」
先輩の言葉は貴重であると同時に,「考えて手紙を出したのだから」という思考がポイントだ。たまに受け取る研究者や大学院生からの問い合わせは,考えて連絡してきていることを考慮する。時に応答が面倒なこともあるが,丁寧に対応している。
NHK将棋講座2015年1月号
「内藤九段 それは私が形勢を損なって,もう勝負を諦めかけた時であった。いつもは様子をちらっと見て帰っていくのに,その日は廊下から立ったままじっと私の盤面を見つめて動かない。嫌だなぁと思っていたが,師匠の姿からふと感じるものがあって座り直した。
負けだと思っていた局面に勝負手が残っていたのだ。気づいたおかげで,私はこの勝負を拾った。師匠は私が座り直した時,以心伝心なったと見て立ち去った。厳しく言えば,これは助言にあたるかもしれない。だから内緒の話にしてほしい。」
内藤九段の文章はやはり面白い。
NHK将棋講座2015年1月号
「自戦記・森下卓 将棋は,持って生まれた運と才能に大きく影響されるが,それと並ぶほど,強くなりたい,勝ちたいと言う情熱が大きい。情熱を失ったら終わりである。私の情熱は死んでいた。」
繰り返すが,私にとっての将棋文献の継続的講読は専門職における適性の論考と同義である。また,心理学研究では研究環境および研究の継続が重要だと私は考えている。
NHK将棋講座2015年1月号
「都内のとある居酒屋にて。「棋士はみんな記憶力がいいって?そんなの人によるとしか言いようがない。佐藤さん(康光九段)が目隠し将棋で5面指しやってたけど俺は無理だねえ。例えば冷蔵庫をパッと開けるでしょ。閉めるでしょ。それでどこに何があったか答えろって言われても,全然わからない自信がある」
自信がないことに妙に自信満々なのは渡辺明二冠。でもですよ,大好きな競馬の話になると「15年前の有馬記念の3着馬は〇〇だった」なんて言うふうに記憶力が良くなるのはなぜ?
結局のところ,棋士は総じて凝り性だから,興味があるものに対しては驚異的な能力を発揮する。しかしそれ以外は力が入らず,覚えられない。そういう解釈でよろしいんでしょうか。」
興味深い知見である。
NHK将棋講座2015年2月号
「豊川孝弘のパワーアップコラム 同期入会の羽生さん,佐藤さん,森内さんがプロになってバリバリ大活躍しているのを横目で見ているわけなので,彼らと自分を比較して辛くなったりもしました。」
ビッグネームが近くにいると考えることは多そうだ。
NHK将棋講座2015年3月号
「谷川九段は考慮中,右手で扇子を持っていることが多い。以前,「手拍子で刺さないために右手の上に左手をおいて考えるようにしている」と話されている記事を読んだ。細心の注意を払い,扇子を持つ手にも関係があるのかもしれない。」
セルフコントロールの知見である。
NHK将棋講座2015年7月号
「畠山幹事のメッセージ 「将棋が絶対に強くなる勉強法はありません。だけど,強くなるかもしれない勉強法ならいくらでもあります。」
将棋の勉強法には正解がない。将棋文献では師匠と弟子の関係に関する文章がいくつも提出されているが,師匠から全く指導を受けずにプロになりタイトルを取る弟子がいれば,師匠から指導を受けてもプロになれない弟子もいる。
NHK将棋講座2015年8月号
「糸谷哲郎竜王 タイトルを取ってからは,イベントに出演することが増えました。解説の仕事も増えています。昔はお客さんの反応を見ないと話せなかったんですが,スタジオでの無観客の解説に慣れてきましたね。昔は対話をしていたけど,解説ができるようになってきたということですかね。」
説明と対話は異なるというこの知見は以前に別のブログでもフィーチャーした。講義形式は講義者に知識と説明能力が求められる一方,対話形式はそうでもない。ただ,だからといって講義形式が優等で対話形式が劣等というわけではない。また,講義形式で話ができない人は,論理が不足していると私は認識している。
NHK将棋講座2016年2月号
「屋敷九段 16歳で四段になり,18歳の時に棋聖を獲得できました。現在もタイトル獲得の最年少記録として取り上げていただく機会が多く,嬉しく思います。最近は棋士全体のレベルが上がり,完成度の高い若手棋士が増えてきました。競争が激しくなったことで,この記録は簡単には破られそうにないのは幸いです。」
のちに藤井二冠がこの記録を更新した。
NHK将棋講座2016年11月号
「木村八段 私の将棋は受けが強いと評していただくことが多いです。攻め駒を攻める展開になることが多く,それが受けのイメージにつながっているのかなあと思っています。とても名誉なことではありますが,実は攻めることの方が好きなんです。」
木村九段の受け将棋が「攻め駒を攻める」タイプであることは将棋ファンならお馴染みである。
NHK将棋講座2016年11月号
「対局が終わってから,糸谷に聞いた。「本局もそうだが,渡辺竜王は糸谷さんの得意戦法を避けまくっている印象がある。気になりませんか?」と。
糸谷の回答は明快だった。
「竜王戦の時はちょっと考えました。でも,もともと何をやっても渡辺先生のほうが力は上。負けているのは実力の問題であって,戦法の問題ではありません」と。」
NHK将棋講座2016年12月号
「木村一基八段から,藤井猛九段への質問
Q プロも感心する構想がどうして浮かぶのか不思議でなりません。きっかけやコツなどを教えてください。
A 藤井システムは最後の勝負手でした。当時は振り飛車が絶滅の危機に迫られていましたから。大袈裟に聞こえるかもしれませんが,私も棋士生命が断たれるかどうかの瀬戸際でした。必要に迫られて仕方なくというのが正直な理由です。
振り飛車の魅力のひとつに美濃囲いの堅さがありますが,居玉で仕掛ける藤井システムはそれを放棄するんですから。まして居玉で戦うなんて,よほどの追い込まれ方ですよ。居玉で戦わざるを得なかったというのが藤井システムの真相です。実際に危機感や本気度は,他の棋士よりかなり高く考えていたと思います。」
NHK将棋講座2017年2月号
「郷田真隆王将,自らを語る 私が今まで指した将棋で一つ局面を挙げるとしたら,王座戦で丸山さん(忠久九段)と対局した1局(2013年5月17日)です。
中略
桂を渡すと△8六桂▲同歩に△7七歩成で自玉が詰まされる際どい状況でしたが,銀を捨ててから▲2三歩が,我ながら会心の手順でした。鮮やかに収束した将棋で,棋士人生で一番の寄せと行っていいものだと思っています。初見でこの寄せを発見できたのは大きな喜びでした。ですが,誰も褒めてくれずさみしかったので,ここで披露します(笑)。」
NHK将棋講座2017年3月号
「加藤一二三九段,谷川浩司九段を語る 詰め襟姿で初々しい藤井四段を見ていたら,谷川さんと初めて対戦した時のことを思い出しました。谷川さんも藤井四段と同じくデビュー戦で,まだ中学生でした。
その将棋はテレビ対局で行われ,私が谷川さんのひねり飛車に圧勝したのです。印象深かったのが終局後の感想戦でした。谷川さんは「照明が明るかったので」と言ったのです。私は特別明るいとは思わなかったけれど,実に率直で好感が持てました。普通の状況だったらもっといい将棋が指せたと言っているわけです。私は当時,すでにタイトルを獲得していたので貫禄を示したわけですが,谷川さんの発言は強気で頼もしいと思いましたね。」
NHK将棋講座2017年3月号
「私と谷川さんといえば,以前に席次問題がありましたね。谷川さんに名人を奪われた翌年の対局で,私が上座に着いたことがありました。谷川さんは後日,専門誌に寄せた自戦記で「私の座る席がなかった」と書かれていたので,ご存知の方も多いことでしょう。
その対局は1984年の第23期十段戦のリーグ戦でした。当時の私はすでに十段を獲得した経験があり,いわば十段リーグは常連です。一方で谷川さんがリーグ戦を戦うのは初だったと記憶しています。ですので十段戦では私が先輩と認識していましたので,上座に着いてもいいのではないかと思ったのです。私の実績のない棋戦だったら,何のためらいもなく下座に着いていたでしょう。
谷川さんの自戦記を読んで反省したところもありましたが,後の号に読者から「どちらの言い分もわかる」といった投稿がありました。現在は席次の順位が規定で決まっていますので,こういったトラブルは起きませんが,当時はあいまいなところもよしとされていたのです。もちろん過去のことですし,私と谷川さんに遺恨はありません。」
加藤九段の知見である,加藤九段は規定等に厳密なので,規定がなく曖昧さが存在した当時はこのような行動を採択していた。
NHK将棋講座2017年4月号
「文・森充弘 千田翔太VS佐藤康光 「これだけ変わってしまう人もめずらしい」(森内)というほど佐藤の棋風が変化したのも,きっかけは戌年の羽生善治三冠だった。佐藤は自著で,30代になって対羽生戦で大きく負け越したことが棋風改造の発端になったと書いている。」
NHK将棋講座2017年5月号
「文・松本哲平 橋本崇載VS佐藤和俊 2年前の準決勝では二歩を打つという衝撃的な敗戦に終わった橋本。さぞショックを受けたことだろうと思っていたが,そのあとさまざまなメディアで取り上げられ「一歩千金,二歩厳禁」という名言とともに,知名度を上げるきっかけにしてしまったのには驚いた。転んでもタダでは起きないところが橋本らしい。当時,局後の取材で「これからが楽しみです」と不敵に語っていたことを思い出す。」
「トップ棋士たちの苦戦が続いた中で異彩を放ったのが康光だった。新人王戦優勝の増田康宏四段をはじめ,斉藤慎太郎七段,千田翔太六段,佐藤天彦名人といった若い先代の代表格を次々に破った。解説の羽生三冠は「豪腕と言いますか,研究熱心な若手を相手に力でねじ伏せていくのが印象的」と感心する。
それを聞いた康光は「大雑把な感じに聞こえますが,私なりに研究を重ねて繊細の指し回しを心がけていたんですがね」と苦笑するも,「豪腕という響きは嫌いではないです」と言ってニヤリとした。」
将棋界ではこのような間接的なやりとりによる交流が存在する。なお,「何何と言いますか」という表現は,羽生九段が時折使っていた表現であり,インスパイアされて他の棋士が現在もしようしている。思考しながら話す話法として有用なのかもしれない。
NHK将棋講座2018年3月号
「菅井の奨励会時代の話になったのは,本局の対戦相手である畠山鎮七段が,菅井にとっての奨励会幹事だったからだ。
「よく怒られました(笑)。奨励会の日に将棋世界を読んでいたら怒られましたね。『そんなのは家でもできる。奨励会間にいる間はここでしかできない勉強をしろ。強い人の対局の空気を吸え』と。他の先輩棋士に言われても”あなたには言われたくない”と感じることもあるじゃないですか。でも畠山先生の説教は素直に受け入れることができた。それは畠山先生が自分自身にも厳しいスタイルで奨励会員の手本となる行動を示されていたからだと思います」」
NHK将棋講座2018年4月号
「本局のあと,渡辺とこんな会話をかわした。日本将棋連盟会長の佐藤康光九段の話題になり,「康光さんは平日,長時間の勉強は難しいですよね」と渡辺が言う。会長職は激務だ。本人に聞くと「平日は勉強できない」と言うが,成績を落としていないのだ。渡辺は「将棋の勉強って何なんでしょうね」とぽつりと漏らし,内容や時間などで試行錯誤していると語った。話の内容が湿っぽくなったからか,「まあ,勝つしかないんだけれど」と明るく述べ,最後にも「でも,どうしたらいいかわからん(笑)」とオチをつけた。」
NHK将棋講座2018年5月号
「山崎隆之八段インタビュー
--自由奔放な山崎隆之将棋ですが,羽生戦の観戦記に,空中分解しないよう,しっかり陣形を組んだとありました
山崎 ようやく衰えを認めました。脳内盤の駒が空中を滑るように飛んでいたのが,今は一手一手,ぱちぱちとしか動きません。それでも戦えているのは,考えや戦い方が変わったからでしょう。
残された時間が少ないからこそ,勝負への執念は昔よりあります。若手時代は,振り駒が終わってから作戦を考えていたけど,いまはあらかじめ戦略を練っています。
以前は将棋に強いほうが勝負に勝つ,勝負と将棋の力は一つのものと思っていました。現在はそれを分けて,要素を組み合わせて考えています。とにかく,持っている武器を使うしかない。それは小細工でカッコ悪いと思っていたけど,余裕はもうないです。」
認知能力の変化の例示である。自発的に涵養したわけではない「持って生まれた能力」とでも言うべき能力は,衰えた時にどのように対処するのか難しい。走りが早い人になぜ早く走れるのかと聞いてもよく分からないことがあるし,部分的に分かったとしてもその人にしかできないことが影響していることがある。プロゲーマーの世界でも同様で,アドヴァイスのひとつに「ボタンを押せ。」というものがある。ボタンを押さないことには勝てないが,いつどのように押すかは認知能力や運動能力に依存する。「すごい人はすごい」と言ってしまうと身も蓋もないが,世の中身も蓋もないことがある。
NHK将棋講座2018年8月号
「文・井出隼平 井出隼平VS近藤誠也 最後の王手ラッシュは届かないことを自覚しつつも,投了が敗着となった実戦を何度も見たことがあるので一応指してみただけである。無駄な王手を続けるうちに心の整理ができてきた。」
NHK将棋講座2018年9月号
「文・上地隆蔵 大石直嗣VS丸山忠久 話は変わるが,丸山がとある健康食品のCMに起用されたと話題だ(具体的な商品名を書けないのがもどかしい)。公式戦で長年愛用していたのが抜擢の決め手という。考えてみると,対局の時固形物を口にして栄養補給をするという,現代プロ棋士の慣習を確立させたのは丸山かもしれない。昔の棋士は,将棋連盟から出されるお茶だけだった。それから森鷄二九段が2リットルのミネラルウォーターを持参し,夜戦に備える戦いを流行らせた。今ではペットボトルの水やお茶は標準装備。その上でチョコレートや飴玉など,糖分補給のアイテムを持参する棋士が増えた。
丸山は熟考中に出る知恵熱を覚ますために,額にシートを貼り付けたこともあった(これも具体的な商品名を書けないのがもどかしい・・・)。将棋に少しでもプラスになると思えば,自分流を徹底するのだ。ちなみに,この日の丸山はNHKから出されたお茶だけ。額を見ても何もくっついていなかった。」
「文・大川慎太郎 佐藤康光VS行方尚史 そもそも佐藤は有力と見られている作戦から逃げることはない。「もし避けたら,その戦法が優秀と認めることになりますから」と以前に語気を強めて語っていた。何という負けず嫌い,そして頑固さか。だがそれが佐藤将棋を支えているのである。」
将棋界では,格上と指すことを「教わる」と表現したり,最新形に精通した棋士と最新形で対局して負けて学ぶことを「授業料を払う」と表現したりする。
NHK将棋講座2019年4月号
「藤井聡太の最年少四段昇段コメントを求められた折,「将来,檜舞台で対戦できることを楽しみにしております」と述べたことに対して,「それは実現すると思いますか」と藤井の地元,中日新聞の記者が羽生にたたみかけた時の返事がファンの間に波紋を呼んだ。羽生は「藤井さんがどうこうより,自分がそれまで一線で踏ん張っていられるかということのほうが重要です」と語ったからだ。この発言当時の羽生は,王位,王座,棋聖の三冠を保持していたわけで,藤井の急激な台頭とあまりにも対照的に見える弱気なコメントと受け取られたからだ。その点を改めて質すと,クスッと笑みを返した後,こちらの胸のつかえがストンと落ちる答えをくれた。
「30歳以上のタイトル戦って,将棋界の歴史を振り返ってもそうそうないことですよね。南(芳一現九段)-大山(康晴十五世名人)の棋王戦(平成元年の第15期。南棋王25歳に,大山が66歳で挑戦した)ぐらいのものじゃないですか?それだけ離れていると,一般棋戦なら対戦することがあるとしても,タイトル戦の番勝負でというのは非常に難しいことなんです。私自身,年下の立場では経験がありませんし,ましてや年上の立場でというのは想像もしていませんでした。あのコメントは,単純にそういう意味でお答えしたものです」」
今では勢力図が変わっている。将棋世界の知見と合わせて興味深い。
NHK将棋講座2019年5月号
「年頃の少年たちが大人に混じって切磋琢磨する世界なので,将棋以外にもギャンブルや酒など魅力的な脇道はたくさん用意されているが,「名人候補」と認められた人間にはそうした誘惑がなぜかかからない。
谷川浩司がそうだったし,羽生善治もそう。古くは,中原誠も,入会して半年もしないうちに,周囲から自然と別格扱いをされていたと伝えられている。将棋界の,誇るべき伝統の一つだ。」
そのような伝統が確たるものとして存在するならば良いことである。私は最近,才能がさほどない人は横道でお茶を濁す中で面白いことができると考えている。
NHK将棋講座2019年11月号
「「僕の将棋はあのときから大きく変わりました」と,渡辺自身がその境目を鮮明に実感したのが,平成15年の第51期王座戦だった。19歳,史上3番目の若さで挑戦権を獲得し,羽生善治に挑んだ初めての番勝負の経験。
「羽生さんはこんなところまで考えているんだという驚きと発見の連続。あの体験は感動的でした。四段になりたての頃だって,弱くてどうしようもないという将棋では決してなかったと思うのですが,あの王座戦五番勝負以前と以後では明らかに将棋の質が違っています。それがわかるので,昔の自分の将棋を並べようとは思いません。」
渡辺名人の知見である。この王座戦のバックステージ情報は「将棋の渡辺くん」でもフィーチャーされている。
NHK将棋講座2020年4月号
「文・岩田大介 斎藤慎太郎VS永瀬拓矢 永瀬がよく揮毫する言葉に「不倒」がある。それが永瀬将棋そのものだ。これほど倒しにくい相手はそういない。
かつて永瀬は敗勢と思われる将棋を逆転した後,関係者から「ソフトの評価値は大差で負けだったよ」と聞かされた。永瀬の答えは「でも詰むまでは負けではないので」。ソフトと人間の評価は必ずしも一致しない。1手で逆転する3000点もある。とはいえ,「詰むまでは負けない」と笑いながら話す永瀬には恐ろしさすら感じた。本局も粘り強く攻める。」
これが永瀬王座の強さを支える思考だと私は考える。
NHK将棋講座2020年8月号
「盤外では競馬や麻雀など,”課外授業”に精を出し,どこか才能を持て余しているような感があった。また,若手では珍しく淡白な一面もあり,そんな阿久津を一喝したのが8歳年上で当時六段だった鈴木大介九段。鈴木九段は阿久津の才能を高く評価していたひとり。弟分の不甲斐なさをもどかしく感じていたのだろう。
しかし,負けん気の強い阿久津は「私が目指しているのは羽生さんクラスの棋士であって,鈴木さんクラスではありません」と兄貴分の愛のムチを突っぱねてしまう。世が世なら暴言だ。
このエピソードは阿久津の結婚式で祝辞を担当した鈴木九段が明かしたもの。
「阿久津は現在,私より上のクラスで活躍しているので,彼のいうことは間違っていなかった」と期待する後輩の門出に花を添えたのは,まさしく愛の証しだ。」
私も阿久津八段と同じようなことを言うタイプである。
NHK将棋講座2020年11月号
「囲碁の名棋士,橋本宇太郎九段(本因坊など7大タイトル8期,87歳で亡くなるまで現役を貫いた)の名言に「囲碁は百年をつなぐ」がある。幼くは50歳年上の相手に教えを乞い,老いては50歳年下の若者と對局することによって,上下100年がつながるというロマンだ。谷川は「私も橋本先生のその考えに感銘を受ける年齢になりました」と,少しだけ照れたような表情を浮かべる。
谷川が想う「つなげられた人」とは,39歳年長の大山十五世名人だ。谷川が世に出た時には,時代は中原十六世名人のそれに入れ替わっていたが,大山十五世名人は50代以降も超一流の強豪棋士として絶大な存在感を放っていた。
「大山先生が50歳を過ぎても普通に勝っていたので(20代より50代の方が勝数が多かった!)歳を重ねても,それほど棋力は落ちないものだと思っていたんです。しかし,実際に自分がその年齢に達してみると,大山先生が例外だったことがよくわかりました。」
思えば研究の世界もそうかもしれない。文献であれば数百年の時を超えて知見を次の世代に伝えることも簡単である。
NHK将棋講座2021年2月号
「やがて生み出す藤井システムは,羽生善治,森内俊之,佐藤康光ら先駆者たちの背中をとらえる切り札になった。時代を刷新した戦法の画期性について,後の永世七冠は「200年考えても思い浮かばない」と表現したことがある。
「変な意味ではなく,私が羽生さんなら同じことを言うかもしれない。羽生さんには特別な武器はいらなくて,200年思い浮かばなくても困らないはずだから。」」
藤井猛九段の見解である。藤井システムは誕生秘話からバックステージ情報から関連情報まで何度も美味しく味わえる。
NHK将棋講座2021年3月号
「文・内田晶 永瀬拓矢VS木村一基 永瀬は第68期王座戦で初防衛を果たした。3期目のタイトル獲得となり九段に昇段。局後の取材では触れられず,翌朝に感想を聞くと「大変名誉なことではありますが,特に意識はしていません。私は肩書きで将棋の内容が変わるタイプではありませんので」との答え。勝負への貪欲さは少しも変わらない。」
これも永瀬王座の強さを支える思考だと私は考える。
NHK将棋講座2021年4月号
「今回の取材は2時間に及んだ。「私はオープンですから」と,何を聞いても包み隠さず,すぐにわかりやすい答えを返してくれた千田だが,最後の質問にはちょっと間を置いた。なぜ強くなりたいのか。強くなってどうしたいのか。
「なぜ強くなりたいのかは,簡単にいうと,AIを使ったことで人間の能力が上がったことを示したいからです。ただ,例えばバッグギャモンではすでに語られているので,将棋でもう一回示しても,例が増えただけかもしれません。さらに,今後の社会で人間そのものが強くなることに意味があるのか,ソフトを使えば別に人間自身が強くならなくてもいいのではと言われてしまうかもしれないです。その二つは疑問点としてありますね」
タイトル獲得や棋戦優勝などという目標は持っていない。棋力向上のみに意識は向いており,そのツールはAIだとはっきりしている。勝負師というよりは研究者のように見えるそんな千田が,最後にある棋士の名を挙げた。やはりあの人だけは意識しているようだ。
「強くなれば結果は伴うものだと思います。今は藤井聡太さんというものすごく強くて若くて,あらゆる意味で一つ抜けたすごい人がいます。こちらの棋力が上がったとしても,向こうの棋力も上がれば一緒なので,今後は戦績が残せるかという不安はありますね。」」
千田七段の知見である,「AIを使ったことで人間の能力が上がったことを示したいから」とは至言だ。人間が車と競争してもあまり意味はなく車を活用して人間がどのような知見を手に入れるのかが重要であるのと同じように,AIを手にした人間がどのような将棋を指せるのかが重要だ。
2021-07-15
西瓜の次にパッションフルーツとスモモを好きになる
3月頃に苺を好きになり,その苺の次に5月頃に西瓜を好きになり,その西瓜の次に6月頃からパッションフルーツとスモモを好きになった。5月と比較するとスーパーで並ぶ6月の西瓜は糖度表示が低下していた。実際に食べると官能評価でも糖度は低く感じられた。面白くなかった。そこで,6月中旬からパッションフルーツとスモモを買って食べるようになった。そして,現在も継続している。
パッションフルーツは美味しさと食べやすさが評価できる。美味しさの中には香りと食感も含まれる。食べる前に甘酸っぱい香りを嗅覚で先行して楽しみ,口に含むとプチプチとした食感とともに甘味と酸味を楽しめる。食べやすさの中には保存のしやすさも含まれる。冷蔵庫で追熟がてら1週間近く保存できるのは買い物の手間が省けて良い。食べる時は真っ二つに切ってスプーンで掬って食べるだけなのでイージーだ。
パッションフルーツの特筆できる特徴は,チョコレートとの相性が抜群に良いことである。パッションフルーツを食べた後,部屋中に広がる香りを纏いながらチョコレートやチョコレートアイスを食べると至高である。なお,どういうわけか手を洗ってもお風呂に入っても手についたパッションフルーツの香りが落ちないことがあるが,とても良い香りなので全く悪い気がしない。
スモモも同様に美味しさと食べやすさが評価できる。美味しさでは,甘味と酸味を楽しめる。食べやすさでは,スモモは非常にシンプルで,洗うだけで皮ごと食べられる。皮に酸味があるので食べない手はない。私のビヘイヴィアにピッタリである。
なお,今回は私的に一般的と判断できるカタカナ表記で名前を表記した。苺と西瓜は漢字表記もカタカナ表記も見かける一方,パッションフルーツは漢字表記は全く見かけないしスモモは漢字表記は一般的ではない。
パイナップルとマンゴーがたくさん流通するようにもなったが,ともに食べにくいので食べていない。食べやすさは重要である。沖縄で市販されているパイナップルは1玉丸ごとでの販売が多く,カットでの販売はPhilippines産が主流で,店を選ぶので好きなタイミングで食べられずにいる。カットするのは面倒だしパイナップルは特に負傷のリスクが高い。
2021-07-12
将棋文献のreview:将棋世界スペシャル2013年,2018年
将棋世界スペシャルをreviewする。今回は「将棋世界スペシャルvol. 4 加藤一二三--ようこそ!ひふみんワールドへ--(2013年)」と「将棋世界スペシャル愛蔵版永世七冠羽生善治のすべて(2018年)」が対象である。タイトルや段位は当時のものを採用している。今回も引用が過半で著作権のポイントとなる主従関係は逆転しているが,著作権を侵害する意図は全くなく,この雑誌が連綿と価値ある知見を提出し続けていることを紹介する。また,私のサイト全体で見た時にはこの問題点はクリアできているというのが私の認識である。面白いと思ったなら原本を参照して欲しい。
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将棋世界スペシャルvol. 4 加藤一二三--ようこそ!ひふみんワールドへ--(2013年)
「加藤 私は以前に,NHKの将棋講座を半年ほど担当したんですよ。そこでリハーサルをするんですが,2回だけ,リハーサルが完璧でしたということで,そのまま放送で使ったことがありました。私はリハーサルも本番同様の気迫でやっていましたので。」
加藤九段の伝説のひとつである。私は研究発表であれ授業であれメディアの取材であれ,リハーサルや練習はほどほどの気迫で行う。また,本番もほどほどの気迫で行う。気迫の定義に依存するが,これは心理学の研究知見を応用して適度なリラックス状態で物事に取り組むことが重要だと私が考えているためである。「だから淡野はオーディナリなんだよ。」と言われれば受け止めるしかない。
将棋世界スペシャルvol. 4 加藤一二三--ようこそ!ひふみんワールドへ--(2013年)
「--特に将棋の勉強をせずに自然と強くなったそうですね。
加藤 ええ,そうなんですよ。近所に強い人がいなかったので勉強する機会がなかったわけです。だから,どうして強くなったかと聞かれても困ってしまうんですよ。」
同様の意見として,渡辺名人は,将棋が強くなる子どもは放っておいても強くなると指摘している。
将棋世界スペシャルvol. 4 加藤一二三--ようこそ!ひふみんワールドへ--(2013年)
「--「神武以来の天才」と呼ばれましたが,どんな心境でしたか。
加藤 はっきり言って僕自身はそう思ったことはありません。神武というのがいまいちよくわからなくて。実体がないわけですからね。「一分将棋の神様」とも呼ばれていますが,そもそも神様という言葉を軽々しく使うものではないと私は思っています。秒読みでも正確に指せるという高い評価をいただき嬉しく思いますが,自分が神だなんておこがましい。大山先生(康治十五世名人)は私のことを「早指しの大家」と書いてくださいました。さすが大山先生で,この表現なら納得がいきます。そうそう,私のことを「加藤さんは天才である」とも書いてくださいました。私のことを褒めてくださった先輩棋士は大山先生だけでしょう。大変有り難いことで,深く感謝しております。」
加藤九段は信心深いことで知られる。私も神という単語の濫用は良くないと考える。
将棋世界スペシャルvol. 4 加藤一二三--ようこそ!ひふみんワールドへ--(2013年)
「加藤 棋士の仕事は非常に深く,自分自身で感動することもできる世界です。私が体験した感動は愛好者にも同じように味わっていただけると自負しています。それが棋士の存在価値だと思っています。」
質の高い仕事をしていると,その仕事が他者に及ぼす影響も質が高くなると私は思う。
将棋世界スペシャルvol. 4 加藤一二三--ようこそ!ひふみんワールドへ--(2013年)
「--1982年の名人戦で中原名人をフルセットで破り,3度目の名人挑戦でついに大願成就します。
加藤 持将棋。千日手を含めて10局指したので,番勝負は7月までかかりました。私は暑さが苦手なのですが,この年は偶然にも冷夏だったことが幸いしました。夜,クーラーなしで熟睡できたことが勝因の一つでした。クーラーを付けて寝ると,朝起きた時に疲労感がありますから。夏は涼しい軽井沢に住んで新幹線で対局に通う手も有力ではないかと思っているぐらい,自然体で熟睡するのが重要だと考えています。中原さんは番勝負が長引いて気候が熱くなれば自分の方が有利だと思っていたようですが,冷夏だったのは誤算だったようですね。」
物事とその周辺についてラディカルに考えることができる人を私は尊敬する。物事の根本的な見直しや原点に立ち返った議論は重要だ。なお,私の理想は,春は沖縄,梅雨は海外,夏は沖縄と北海道と海外,秋は東京と名古屋と奈良,冬は沖縄と福岡と海外で過ごすことを理想としている。部分的に旅行することで実行しているが,COVID-19の影響で1年以上阻害されている。
将棋世界スペシャルvol. 4 加藤一二三--ようこそ!ひふみんワールドへ--(2013年)
「中原 また裏話だけど,この第3局で加藤さんが頼んで宿泊の部屋を変えたんだ。「川の音がうるさい」と言ったらしい。波や滝も含めて,水の音が苦手みたいなんだよね。担当の方が気を利かせて私にも確認してきた。何でもないはずだったけど,言われると気になるんだよね。せっかくだから私も替えてもらったんだけど,これが失敗だった。
--何があったのですか。
中原 変わった部屋がエレベーターの前なんだ。これは本当にうるさくまるで眠れない。事前に担当者が吟味して良い部屋を選んでくれるのだから,替えてもらうものではないんですよ。」
以下に滝を止める件が出てくる。なお,私もホテルに宿泊する際はエレヴェイターから離れた部屋を選好する。海外のリゾートホテルは予約時に階層,眺望,エレヴェイターからの距離,ベッドの数など豊富な選択肢を用意しているし,担当者に依頼すればするだけ得をすることが多いので私はあれこれ要望を伝えるようにしている。加えて,耳栓を持参すれば憂いなし。
将棋世界スペシャルvol. 4 加藤一二三--ようこそ!ひふみんワールドへ--(2013年)
「私がこの将棋を選んだのは,このシリーズを経験したことにより,将棋というものは自らが感動することができ,そして限りなく深いものである,と分かるからです。そしてその感動は適切な解説を加えることによって,多くの人たちにも伝えることができるーそう思っています。」
上述の知見と同型的知見である。
将棋世界スペシャルvol. 4 加藤一二三--ようこそ!ひふみんワールドへ--(2013年)
「加藤 以前羽生さんがこう言っていました。「タイトル戦で旅館とかホテルに行くと前日の検分の時に,関係者が『ここで加藤先生は滝を止められました』と言うんです。そういうときは『私も止めてください』と言っているんです」。私が滝を止めたことは2,3回あるんですよ,と言ったら,羽生さんがニヤッと笑って「先生,5箇所くらいは聞きましたよ」。私は音を気にするので,滝を止めるのは当たり前と思っていたんですが,これでもその滝があまり観光客が来ていないのを確認して言っています。もし,その滝が有名で人が集まるような名所だったら言いません。私も勝手気ままに振る舞っているわけではないんですよ(笑)。」
これが加藤九段が滝を止めた件である。
将棋世界スペシャルvol. 4 加藤一二三--ようこそ!ひふみんワールドへ--(2013年)
「対局には万全を期したいのです。ですから自室にしても川の音を気にして部屋を変えてもらったことが3度あります。全部勝ってます。予測できるトラブルは避けるという私の慎重さの表れなんです。」
「予測できるトラブルは避ける」という考えは私と同じである。場当たり的ムーヴは大嫌いだ。私は人事は尽くすべきだと考える。
将棋世界スペシャルvol. 4 加藤一二三--ようこそ!ひふみんワールドへ--(2013年)
「うなぎや寿司が好物の加藤九段。将棋は体力,なので対局時は美味しいものを食べ力をつけるのは当然。常人ならば昼うなぎを食べたから夜は寿司にしようかなと考えそうなもの。だが,そこは将棋一筋の加藤九段。「その場で食事を考えると結構迷うかもしれないので,注文を決めておいた方がいい」という思考で,昼夜同じメニューになるのだとか。
鍋焼きうどんや天ぷら定食も好きだが,うどんはなかなか冷めないのが難点。天ぷらは2度注文して2度とも来なかったのでNG。結局うなぎが長期政権を築くことになった。」
加藤九段の有名な特徴のひとつである。
将棋世界スペシャル愛蔵版永世七冠羽生善治のすべて(2018年)
「--永世七冠を達成されて,羽生さんはこれから先,何を目標になさるんですか。
羽生 うーん,何を目標にしたらいいんでしょうかね(笑)。まあまあ,とりあえず目の前の1年を頑張るというところですね。」
目前のことを頑張るだけで上質な仕事になる人は恵まれていると思う。オーディナリな人間は目前のことを頑張るだけでは普通である。因みに,私は頑張ることも苦労することも好きではない。自然にしていて類比的に優れそうなことを選好する。
将棋世界スペシャル愛蔵版永世七冠羽生善治のすべて(2018年)
「羽生 年齢は離れた人との対戦が多いので感覚の違いは感じています。例えば,原宿で若い人が話している意味はわかるけど,自分はそういう言葉は使わないことと似ています。指し手の意味はわかるけど,自分は指さないような手を指されることがあります。どう対応したらいいのかなと。」
第一人者の中でも例示が上手い人と下手な人がいるが,羽生九段は前者だと言える。
将棋世界スペシャル愛蔵版永世七冠羽生善治のすべて(2018年)
「--今後の目標をどこに置くのでしょうか。
羽生 目前の目標を,というスタンスが一番いいのではないかと思います。例えば,公式戦1400勝が近づいているので,そこを目指していくなどといったことです。マラソンやトライアスロンと同じ感覚で,20年,30年先を目指すとやる気が落ちます。だからこそ,加藤一二三先生のように,60年以上以上現役を続けるというのは,本当に大変なことだと日に日にそのすごさを実感することが多いです。続けるだけならできますが,情熱とテンションを保つのは大変なので課題です。」
上述した知見と同じである。
将棋世界スペシャル愛蔵版永世七冠羽生善治のすべて(2018年)
「Q 羽生先生は十-二十代の頃,「将棋は純粋な頭脳ゲームであり,人生経験と将棋の強さには関係がない」とおっしゃっていた記憶があります。しかし羽生先生の歩みを見ていると,年齢を重ね,他業界の方々と交流を深めることによって,将棋に幅・厚みが出ているように思えてなりません。そこで改めてお伺いしたいのですが,将棋の強さと人生経験には関係があると思いますか?今の羽生先生の考えをぜひ聞きたいです。
A 様々な経験が活きるか活きないかは未だにわかりません。経験を積んだ以上は,活かす方法を模索すべきと考えます。」
羽生九段が「人生経験と将棋の強さには関係がない。」と指摘したのは,羽生九段が注目されるようになった25年ほど前にドミナントだった当該の知見を否定することで議論を活発にすることを目指したと私は考察しているがどうだろうか。
将棋世界スペシャル愛蔵版永世七冠羽生善治のすべて(2018年)
「Q 羽生先生は様々な方々と対談されていますが,どの分野の話題にも精通されていて驚きます。どのように情報を収集し,自らの知識とされているのでしょうか?
A 詳しい方に話を聞くのが一番の勉強になります。」
同意できる。また,何かに詳しいから何かに詳しい人と話ができるとも言える。
将棋世界スペシャル愛蔵版永世七冠羽生善治のすべて(2018年)
「Q 将棋を通して,一番多く学んだことはなんでしょうか。
A 将棋は深く世界は広いことでしょうか。」
この意見が「深い」。
将棋世界スペシャル愛蔵版永世七冠羽生善治のすべて(2018年)
「佐藤康光(日本将棋連盟会長) 平成8年に羽生さんが七冠制覇を達成した際,将棋界はお祭り騒ぎとなりましたが,1人の棋士としては責任を痛感していました。森内さん,郷田さん,森下さんらもタイトル戦で覇を競っていましたから同じ気持ちだったと思います。
推論ですが,19歳でタイトルを獲得して以降,羽生さんは数多くのタイトル戦を戦う中で,将棋の勉強のみならず,番勝負での戦い方や体調管理,ペースの作り方も論理的に分析し,試行錯誤されて,コツコツと足場を固めておられたのではないかと思います。その目に小さな努力の積み重ねが,七冠制覇の大きな足掛かりになったように思えてなりません。」
梅田望夫著「どうして羽生さんだけが,そんなに強いんですか?--現代将棋と進化の物語--」では,他の棋士より多くのタイトル戦を経験している点が羽生九段を強くしていると考察されている。
将棋世界スペシャル愛蔵版永世七冠羽生善治のすべて(2018年)
「佐藤康光(日本将棋連盟会長) 「盤面を頭に浮かべる時には4分割された盤面が浮かぶ」という,とある取材への回答は衝撃的でした。真ん中はどう分割するのかと思いましたが,羽生さんならではの感覚・合理的思考が潜んでいるように感じました。」
私は「真ん中はどう分割するのか」と思った佐藤康光九段の思考に感心する。
将棋世界スペシャル愛蔵版永世七冠羽生善治のすべて(2018年)
「佐藤康光(日本将棋連盟会長) 平成10年から12年にかけて羽生さんに12連敗したこともありました。タイトル戦の番勝負も2つ含まれており,この時期により大きな差が広がったのではないかと思っています。
当時の羽生さんとの対局では,何が悪かったのかも分からないまま,形勢に差をつけられて敗れることが多く,連敗に悩んだ末に棋風改造に取り組みました。発想を柔軟にして序盤の疑問や課題をもとに誰も指したことのないような独創的な指し方を羽生さんにぶつけてみたのです。指し手の好みを意図的に構想や読みに入れるようにしたのも自分なりの工夫で,現在の独創的と言われる棋風の第一歩となりました。
羽生さんに連敗したことで新境地がひらけたわけですが,そういう意味で羽生さんの影響を受けていないトップ棋士はいないと思います。」
私は佐藤康光九段の新境地(i.e., 独創的と言われる指し回し)に感動しているファンのひとりである。
将棋世界スペシャル愛蔵版永世七冠羽生善治のすべて(2018年)
「佐藤康光(日本将棋連盟会長) その時代その時代で,指し手のお手本になられてきた意味でも,羽生さんの存在は将棋界にとってかけがえのないものだと思います。」
私もそう思う。
将棋世界スペシャル愛蔵版永世七冠羽生善治のすべて(2018年)
「九段 内藤國男 引退していく先輩から「わしも一度くらいは一流旅館で対局したかったなあ・・・」と聞いたことがある。ほとんどの棋士はタイトルの挑戦者にもなれずに引退していく。タイトル1つ獲るのも大ごとなのに,七冠全てを奪ってしまうとは。
四冠か五冠あたりで,関西に住む私宅にも東京から電話取材が入った。私は「いくら羽生くんが強くても,途中で防衛戦もありますからね,七冠は無理だと思いますよ」と答えた。あっさり「そうですか」で終わったのは,先方さんも無理だとわかっているからだと感じた。後日,東京の棋士が「それは像が針の穴を通るより難しいでしょう」と答えた話が週刊誌に出た。こんなオーバーなことを言うのは米長邦雄さんに違いないと思った。」
内藤九段は文章が面白い棋士のひとりである。
将棋世界スペシャル愛蔵版永世七冠羽生善治のすべて(2018年)
「藤田昌俊 昨年,10連覇達成の翌日,羽生棋聖は中学生棋士の藤井聡太四段について,「今は早くタイトル戦の舞台にやってきてほしい。と言うよりも,私自身がどこまで頑張れるかということ。あの年齢であの完成度はすごい。中学生の時は荒削りというか,欠点があると思うんですけど,藤井四段はそれが見当たりません」と話した。当面,棋聖戦で藤井五段の挑戦はないが,ひのき舞台での対戦を待つ気持ちは十分にある。」
勢力図は変わり,現在羽生九段は無冠である。
将棋世界スペシャル愛蔵版永世七冠羽生善治のすべて(2018年)
「我満晴朗 王将戦といえば「勝者の記念写真」を思い浮かべるファンの皆さんが多いだろう。一部では「勝者の罰ゲーム」などと呼ばれているようだが,主催者としては口が裂けてもそうは言えない。いや言わない。と言いながら堂々と書いているあたり,複雑な胸の内を察していただければありがたい。
その「罰・・・もとい,記念写真」。いったいつからこの習慣が始まったのか,実は定かではない。本能寺の変のように「諸説あり」といったところか。」
この「勝者の罰ゲーム」を楽しみにしている将棋ファンは多いはずだ。
将棋世界スペシャル愛蔵版永世七冠羽生善治のすべて(2018年)
「結果的にシリーズ最後の一手となった▲2ニ金(投了図)を着手する時,羽生の指先は震えていた。第四局の最終盤でも同じようなことがあったので,テレビの映像でそのシーンを見て,へーっ,こんなこともあるのかと,驚いたファンは多いと思う。
羽生が勝ちを意識したときに出るクセとしては,駒を盤に何度も押し付けるようにして指す「ぐりぐり手つき」が昔から有名だが,最近はそれが震えに変わってきているようにも見える。
この震えについて,翌日の毎日新聞夕刊に「勝ちが見え,気持ちが乱れたのかもしれません。みっともなかった」という羽生のコメントが載っていたが,みっともない,ということはないと思う。
むしろ私は,ここまで震えることのできる大棋士がプロ棋界にいるのは素晴らしいことだと思う。観戦者以上に,当の対局者はいちばんハラハラドキドキしているわけで,それだけ目の前の勝負に集中しているということでもある。
要するに羽生は,盤の前では将棋のことしか考えていたないのだ。だから髪の毛がピンと跳ねていても平気だし(寝癖ができていることにも気づいていないかもしれない),終盤の難しい局面になると,その髪の毛を激しくかきむしったりするのだ。」
このような文章構成は参考になる。
将棋世界スペシャル愛蔵版永世七冠羽生善治のすべて(2018年)
「--将棋ファンに限らず,誰に聞いても「羽生さんはすごい」という反応が返ってきます。その理由を聞くと,出した結果もすごいけど「ずっと続けている」「モチベーションが下がらない」というところにも多くの関心が集まっています。羽生さん自身は,モチベーションを維持するために,どんなことを意識していますか?
羽生 特に刺激を受けようとはあまり思っていません。普通に,同じような感じでやっていけたらいいな,とはいつも思っています。もう一つ,最近はそういうことを考える時間もない,ということはありますね。例えば一手損が出てきたら,どうしようとなります。それに追われるというか,それにどう対処したらいいのか,ということを考えます。するとモチベーション云々と考えている余裕はありません。
変化が激しく,移り変わりも早い,という状況も関係しているとは思いますが,同じ将棋をやっていても,確かに違う感じはします。同じことの繰り返しの中では,結構モチベーションが下がってします気がしますが,違うことをやっている分には,そんなには・・・・。
--ということは,戦型が多様化している今の状況は,羽生さんにとって嬉しいと解釈していいですか。
羽生 嬉しいというか,それに対応せざるを得ないという感じです。自分がそうしたわけではなく,そうなったので。」
「普通に,同じような感じでやっていけたらいいな」と思い「モチベーション云々と考えている余裕」がない状況で,価値があり,かつ,たくさんの人に影響を与えられる仕事ができることを私は羨ましいと思うと同時に,そのような人間を惜しみなく讃えたい。
将棋世界スペシャル愛蔵版永世七冠羽生善治のすべて(2018年)
「さて,長く続けることについて何度でも聞きたい質問です。調子が悪いときにどうするか。
羽生 どうしようもありません。調子が悪い時は,手が浮かぶスピードも鈍いし,方向性もずれています。しかも,指してみないとわかりませんから,対策の立てようがないんです。コンディションがいいかどうかはその日になってみればわかりますけど,調子がいいかどうかはわかりません。天気と一緒です。雨が降っているからといって,雨を止めるわけにはいかないでしょう。「今日は雨だ」と思うしかありません。そんなものです。」
私なら,さらに踏み込んで,その自然体で結果を残す方法を聞いただろう。
将棋世界スペシャル愛蔵版永世七冠羽生善治のすべて(2018年)
「村瀬信也 羽生竜王は,なぜここまで勝ち続けるのか。一ファンだった子供の頃から,将棋担当記者となった今まで,折に触れてこのテーマについて考えてきたように思う。不断の努力と並外れた勝負への執念が背景にあることは間違いないが,間近で取材をしていて,ひしひしと感じるのはタフな精神力だ。
昨年10月,直接取材する機会があった。ちょうど王座を奪われ,タイトルが棋聖だけになって2日後のことだ。
以前からアポイントは入っていたが,この時は普段より緊張した。だが,本人の様子はいつもと変わらず,屈託がない。自身と若手棋士の将棋の違いについて尋ねると「中村(太地)さんはそんなに違わないと思いましたが,菅井(竜也)さんは全く読みが合いませんでしたね」。タイトル戦で敗れた2人の名前を自ら挙げて,苦笑した。その一週間後に開幕した竜王戦七番勝負で見せた意欲的な指し回しは,見事の一語だった。
羽生竜王は負けたときの気の持ちようについて,「いい意味でのいい加減さというか,ズボラさみたいなものも大事」と語っている。しかし,一流棋士ほど,勝利に伴って得たものだけでなく,敗北によって失うものも大きい。その自信が揺らいだり,不安が頭をよぎったりすることが皆無だとは言えないだろう。自分とどう向き合い,いかに気持ちを切り替えて次の勝負に臨むか。その孤独さは,常人には計り知れない。」
参考にしよう。
2021-07-08
経済の演習:株主としての議決権の棄権
経済の演習として,株主としての議決権の棄権を行なった。5月から6月にかけて株主総会の案内および議決権行使書がいくつか届いた。私は総会に出席することも議決権を行使することもない。私は有限責任の中で株式取引を行ない経済を観察することを目的としている。社会的価値が高いと判断して当該企業の株式を購入し,適度に株価が上がった際に売却しているので,そのままよろしく経営してくれれば良いと考えている。COVID-19への配慮が必要な中でわざわざ旅費を支出して出向いて総会に出席することも統計的に誤差レヴェルの議決権数を動かすこともない。言い換えると,積極的に何もしなかっただけである。
ただ,これらの書類が手元に届いたことで,自己株式の取得(i.e. 自社株買い)は企業にとってメリットがあると体感した。個人株主が多ければ書類の手続きにコストが嵩む。私は広島大学の助教時代に心理学教室の同窓会の事務局業務を担当していた。書類の作成および発送には膨大な手間と費用がかかることを知っている。企業によって異なるだろうが,基本的には,議決権行使書に印字されている料金別納郵便の書式は事務側で作成する必要があり,文字通り料金は別納する必要があり,期限を過ぎて料金別納郵便が投函された際はその取り扱いも面倒で,同封されている情報保護シールは別途発注する必要があり,その挙句に送付される議決権行使書の多くは測定誤差としての個人株主の意見である。東京証券取引所市場第一部に上場している企業であれば業務は外注しているだろうが,とにかくコストがかかる。自己株式の取得でコスト削減ができる。それを踏まえて,株主総会に出席する場合のみ議決権が行使できる企業もある。その他のメリットを差し置いて今回の体感は大きかった。
株式に関する情報のアップデートは継続して行なっている。一連の経済に関する演習は,去年2020年にCOVID-19で行動が制約される中で始めたことである。為替と株式について学び,今年2021年に入って確定申告を行なって演習レヴェルの学びがひと段落した。それ以降は新しく知見を獲得するとともに既有の知見をアップデートしている。正解がない世界で自分なりの行動選択を行い多様な未来が帰結するので面白い。
2021-07-05
将棋文献のreview:将棋世界2013年11月号 - 2021年6月号
将棋文献のreviewを行なう。私は,2013年に,当時読み耽っていた将棋雑誌の「将棋世界」,同じく「NHK将棋講座」,および諸諸の図書のreviewをこのブログで行なった。それから8年が経過した。今でも2013年の一連のブログに対して継続的にアクセスがある。私はそれ以降も将棋文献を講読し続けている。今回,書棚を整理したタイミングでまとめた。
江戸時代から明確に資料が残る歴史と確固とした定型の中で人間の営みが明確化することが将棋の魅力のひとつだと私は考えている。今回文献を読み返して直近の5年で状況が大きく変わっていることを改めて認識した。羽生九段はタイトル通算100期を前に足踏みし,藤井二冠は現在進行形でスーパースターである。変わらないこともある。渡辺名人の客観性の高い舌鋒は変わらない。私は自身の興味に基づき,面白いと思った記述をこつこつと収集している。
私はオーディナリな人間なので天才を如実に感じられるプロ棋士の人間性に関する記述を集め,自分に何かできないかと日日考えている。プロ棋士は天才業だと米長永世棋聖は言った。プロ棋士は所謂「ギフト勢」ということである。私はまとめた文章は少なからず巷間の人にも有意なものと考え前回同様にこのブログに書く。心理学を研究して私が至った結論は,心理学には特別な才能は要らないということである。大学院生の時に死ぬほど研鑽を積んである程度研究をしたと言える程度にはなった。だが,その生活を一生継続する気にはならなかった。世界的なビッグネームでさえハードワークで早世することがあるのに,オーディナリな私が命を削ってまでやることはないと思った。旅行で訪れた沖縄の自然に魅了され,沖縄で生活したいと思った。そして,琉球大学のポストを得てのんびりと日日を過ごして現在に至る。最近アラフォーとして年齢を括ることが増えてきた。アラフォーの人間のビヘイヴィアを観察するに,伝わりにくいかもしれないが,惰性で無碍に加齢する人ではなく新たな創造やキャリアの上昇を志向する人あるいは志向できる人は充実しているように見える。私もその権利はある身分だと自認しているので何かしたいと思う。実際,していることはあるが,結実するまで時間がかかるので言えるようになった時にブログに書く。この辺りの話はブログで散発的に開示している。
以下に将棋世界2013年11月号から2021年6月号までで私が面白いと思う知見と私の所感を記す。シンプルに面白いと思った箇所は1,300以上あった。その中から特に好きなものや心理学的に興味深いものをフィーチャーした。タイトルや段位は当時のものを採用している。括弧書きが重複するが順当に読み進めれば問題ない。引用が過半で著作権のポイントとなる主従関係は逆転しているが,著作権を侵害する意図は全くなく,この雑誌が連綿と価値ある知見を提出し続けていることを紹介する。また,私のサイト全体で見た時にはこの問題点はクリアできているというのが私の認識である。面白いと思ったなら原本を参照して欲しい。
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将棋世界2014年1月号
「五番勝負の時期は,他の対局も多くつき,非常に忙しかったと思われます。多忙な中での生活リズムの整え方を教えてください。
羽生 対局が続いても,結局は目先の一局に照準を合わせて集中するしかないと思っています。これは昔から変わりません。限られた時間のなかで何をやるかということですが,昔と比べて時間の使い方の効率がよくなったとも思いません。
羽生王座は「忙しくなればなるほど調子がよくなる」という説もあります。実際,9月以降は王座戦を除くと公式戦で負けなしの状況が続いています。
羽生 調子の良し悪しについて考えたことはありません。ただ,対局が続くと集中する環境が自然に整っていくのかなと思います。
疲れが取れないまま対局に臨むということはないのでしょうか。
羽生 切り替えてやるしかないでしょうね。しんどいという体感があっても,プロを続けている以上は当然のことです。」
羽生九段の「目の前の一局に照準を合わせて集中する」という考えは昔から一貫している。そして,目の前の一局に照準を合わせて対局を重ねるだけで実績や賞賛がついてくることを羨ましく思う。
将棋世界2014年7月号
「渡辺 「将棋では,ピンチで困っているんだけど,なにか指さなければいけないということはよくあるんですよ。当然人生でもそういう状況はあって,苦しい中でどう最善を尽くすか。忍耐力,投げ出さない気持ち,そういったことは将棋から真似るものの一つかもしれません」」
将棋から人生に活かせる知見が獲得できるか否かは議論が分かれるところであるが,私はできると考えている。だからこそ文献を購入して講読のレヴェルまで高めている。
将棋世界2014年11月号
「これには参った。この結論を覆さない限り,後手番で左美濃相手に指す手がない。当時の自分にとって雲の上の二人が出した結論だが,どうしてもその結論に立ち向かわざるを得なかった。自分はそれまで「ハンマー猛」とあだ名が付くくらいパワー将棋を得意としていたのだが,この将棋は詰みまで研究せざるを得なかった。そのあと私は,研究という武器を手に入れることになる。この対局から1年後の対局で新研究をぶつけて,振り飛車勝ちの証明をすることができた。この将棋を島朗八段(当時)が将棋雑誌のコラムで,「藤井くんが指す四間飛車は藤井システムとも言える」と書いた。これが藤井システムという言葉の出始めだった。」
棋士の研究者としての一側面を示している。この熱意はのちの藤井九段の図書にも掲載されており,それについては追ってレヴューする予定である。藤井システムの誕生秘話を読んで私は感動で震えた。
将棋世界2014年11月号
「臨機応変ー。そう語る羽生の言葉を聞きながら,私は谷川九段がどこかで語った次の言葉を思い出していました。「棋士なら誰もが考える手のことを本筋といいます。何が本筋かがわからないとプロの棋士になれませんが,本筋しか指せない人,本筋から外れられない人は絶対にトップには立てません」」
この知見はプロゲーマーに通じるものがあると私は考える。私は将棋の観るファンであるとともにストリートファイター5の観るファンである。ゲーム界隈でもプロシーンが整備された昨今,一連の練習で能力を向上させることができるが,強いプレイの寄せ集めだけではプロツアーで上位に入るプレイヤーにはなれないと私は観察している。知り合いのプロゲーマーと話をした時,トップのプレイヤーに対して「練習から何から狂っている」と評していた。常ならざる者であるからトップに立てると言えそうである。
将棋世界2015年2月号
「歩いているといい考えが生まれるそうですね。
「それはありますね。全身の血のめぐりが良くなるので頭が働くという効果は間違いなくあると思います。」
離席が多いのはルール違反ではないが,マナー違反という声もあります。それについてはどうお考えですか。
「ずっと座っていられればその方がいいのはわかっています。でも足がしびれてくるんですよ。実は去年,離席を減らしたらどうなるのかなと思って,試していた時期があったんです。でも勝率が格段に落ちたので,現状では厳しいと一度はあきらめました。
では,これからも同じスタイルで?
「体重を落として足の負担が軽減されれば座っているのも少しはラクになると思う。だからダイエットも含めて検討します。今年に入ってジムに通い始めたのですが,竜王戦で忙しくなってからはいけていません。今後も忙しくなりそうなので,どうなるかは分かりませんが。」」
糸谷八段の見解である,認知機能の活性化の観点では脳科学的に,普段の行動と同じ行動によって調子を保つ観点では心理学的に,それぞれ支持できる。
将棋世界2015年8月号
「佐藤(康光) しかも面白いのは,その研究ノートに記された図面ですね。自分のところに「室岡」と書いてあって,相手側のところに「全世界」と書いてあるのですよ。これはすごいなあと思いました。だって全世界ですよ。つまり棋風とか好みとかいった要素を一切排除して,論理的な研究で1つの戦法をきわめてやろう,という気概があるじゃないですか。今だったら「新手1勝」じゃないけど,とりあえず1局勝てればいいや,みたいに思う人もいるかと思いますが,室岡先生の姿勢には見習うべきものを感じます。
藤井(猛) 研究しているときの基本的な気持ちとしては,僕も相手は全世界です。「1局,2局はこれで勝てるかな」といった精神では絶対にやりませんね。
佐藤 やっぱり藤井さんは素晴らしいですね。そうじゃないかと思っていました。私はそうではないです(笑)。というのも,最初の話に戻りますが,やっぱり自分は居飛車党出身で,居飛車は先後両方とも指すので,片方がつぶれたら指させなくなってしまいますよね。だから,「きわめてやろう」という精神が薄いというか,どこか純粋じゃないというか,少し濁ったところがありますね(笑)。
藤井 僕は裏表をやらないのでわからないけど,矢倉の先後を両方持つ人にとっては,突き詰めたらまずいところがあるじゃないですか。先手有利になればなるほど後手を持った時には困るわけで,適度なところで止めておきましょうという気持ちが働くのかもしれない。ところが,相手が振り飛車となれば,まったく容赦がないのでこっちはきつい(笑)。振り飛車なんて,向こうの人からすればなくなっても何も困ることはないから遠慮がないよね。「消えてなくなれ」ぐらいに思っているのでしょう(笑)。だから,こっちも全世界を相手に戦う気持ちを持たないと,やっていられないわけですよ。
管井 研究するときには,先後をひっくり返してみることもありますね。
藤井 例えば菅井君が中飛車をやったらみんなが連合軍のように遠慮なく超速▲3七銀戦法でつぶしにくるじゃない。あれなんかどう思うの?
菅井 たしかに超速は勝率が高い戦法ですし,すごい流行でしたよね。でも前は逆に「やってきてほしいな」という気持ちが強かったです。反骨心もありましたし,そういう優秀な戦法と勝負したいという気持ちもありました。そもそもそのときは超速以外の研究はほとんどしていませんでしたし(笑)。いまは特にそういった思い入れはないですね。
佐藤 そういった気持ちは大事ですよね。気概というか,精神がしっかりしていないと1つの戦法を組み立てていくことは難しいと思います。」
心理学であれ物理学であれゲーム業界であれ,研究は人間代表として実施する。その点において,上述の知見は棋士の研究者としての側面を示す知見と言える。なお,格闘ゲームのプロゲーマーがトレーニングを経て戦う時には「VS. The World」などと表現して世界と戦うことを明示することがある。
将棋世界2016年11月号
「こんなにヒドいことをやったのは久しぶりです。33分か。考えすぎたんですかね。頭を働かせすぎてオーバーヒートして故障しました。離席して歩き回って冷却しなきゃいけなかったですかね(笑)。私の離席がいつもより少ないと話題になっていたんですか?なるほど(笑)。まあ,あまり歩く場所もなかったですし,自分が時間を使いすぎていたので,いつもほど歩く余裕がなかったということもあります。ただ注目される舞台なので,一応,積極的に座っていた意味はあるんです。数年前に意識して盤の前に座っていた時期があったんですけど,勝率が落ちたのでやめました。今回もヒドい見落としが出たので,もしかしたら影響しているかもしれません。次局は歩くかもしれないです。」
糸谷八段の見解である,自分のやり方で取り組むことの重要性を教えてくれる。
将棋世界2017年8月号
「一方の藤井(聡太)はというと,「今日は苦しかった。20連勝は自分の実力からすると僥倖としか言いようがないです」。このインタビューを聞いて私がまず思ったのは,僥倖という言葉をサラっと使う中学生がいるのかということ。幸運ではなく僥倖だったのかと,不思議に思う。「君は僥倖を頼んで指したんだな!」秒読みの最終盤で,粘る相手に頓死負けした際,そう言い放ったのは木村義雄十四世名人。木村義雄と同じ言葉を使う14歳の少年。今起こっている現象もさることながら,私は少しずつ零れてくるこんなところにも,藤井聡太の途轍もなさと魅力を感じずにはいられないのである。」
のちに藤井二冠は木村十四世名人の知見を知らないことを開示している。
将棋世界2017年9月号
「--「奏功」も「望外」「僥倖」「一抹」と並んで中学生の表現とは思えません。
「あ・・いや・・望外は将棋界でたびたび使われる言葉ですし。僥倖も使わない言葉という印象はなかったですけど・・・」
--新記録樹立の直後に「特別な感慨」とも。
「将棋の歴史の1ページに名前を残すことができたのは喜ばしいことですけど,畏れ多い気持ちもあります。すべては今後の自分次第だと思います。幸運にも29連勝できましたけど,これからどれだけ強くなれるかが大事ですので。もちろん棋士になった頃よりは自信も・・・とは思いますけど・・・・」」
藤井二冠の知見である,天才途上とでも言える状況を参照できる。
将棋世界2017年9月号
「--羽生三冠は「檜舞台で顔を合わせる日を楽しみにしています」とも。
「恐縮というか畏れ多いです・・・・。当然目指すべき場所ですけど,そのためには僕がもっともっと強くならないといけないので,僕の努力次第だと思います。実力をつけて,(タイトル戦の舞台に)立つべくして立てる力をつけたいです。」
羽生九段が藤井二冠に言ったコメントに関するやりとりであるが,現在は勢力バランスが異なる。羽生九段は藤井二冠がタイトル戦に挑戦するようになるまで自身もその地位にいなければならないと指摘していたことがあるが,現状はなかなか大変そうである。
将棋世界2017年9月号
「--藤井聡太四段がデビューから無傷で29連勝を達成しました。破るのは困難と見られていた神谷八段の持つ28連勝の最多連勝の記録が,14歳の新四段にあっさりと破られてしまいました。
神谷 さんざん取材を受けてきて話しましたが,いつかはこういう日が来るかと思っていました。でも,まさかデビューから負けなしで追い抜かれるとは,思ってもみませんでしたね。
--神谷八段は「凡人がほぼ運だけで作った記録を天才が実力で抜いたことは,将棋界にとってもいいこと」と,粋なコメントを発表していましたね。
神谷 藤井くんが23連勝したときに,将棋担当記者の方から「その日がきたら(取材)お願いします」と言われていましたし,もし記録を抜かれたときには家にジャンジャン電話が掛かってきて,いちいち応対するのも面倒くさいなと思っていたので,将棋連盟に先にコメントをお伝えしておきました。そうしたら並ばれたときのコメントも用意してください,って言われましたよ(笑)。」
興味深いバックステージ情報だ。
将棋世界2017年11月号
「中原先生の本を読んで勉強になった言葉があります。「七番勝負だったら2局はしっかりと勝ち,あとの2局はどんな内容でもいいから勝つ」ということを書かれていました。自分は4局完璧な内容の将棋を指さないと七番勝負には勝てないと思っていたからびっくりしました。ハードルを高く上げすぎたんですね。「勝負の結論は勝ちか負けかの2通りだが,それに至る道のりは無数にある。」これはいまの自分がよく使う言葉ですが,改めてそう思います。若い頃は,初手から最善を突き詰めないとダメだと思っていましたが,それでは指し方が狭くなります。」
なるほど。
将棋世界2018年3月号
「--19歳で初タイトルを取られて,昨年に永世七冠。今年48歳になりますが,ずっとトップを走っていらっしゃいます。この秘訣というのはご自身でどういうふうに思っていらっしゃいますか。
羽生 「いつも思っているのは,例えばマラソンを走る時に,トップになる必要はないとは思うんですけれども,常にトップ集団にいるということが非常に大事なのではないかなと考えています。その集団の中にいる中で切磋琢磨して,その時その時の流行のものであったり,最先端のものであったり,そいうものを取り入れていきながら,前に進んでいくということを心がけてやってきたつもりです。」」
同意できる。研究も,最新の知見や業界のトレンドを何気なく内在化できる環境にいることが重要である。私は,Australiaで世界のトップクラスの研究環境に身を置き,日本とは格が違うことを体感し,日本で研究することは本質的ではないと考えて研究のトップとは全く関わりがない日本の隅っこにある沖縄で,のんびりと空と海を満喫する生活を送っている。
将棋世界2018年3月号
「神谷は30年前に打ち立てた自身の記録に藤井が近づくにつれて,メディアへの露出が増えていた。
「長い間,押入れでほこりを被っていた骨董品(自分の28連勝)に光を当ててくれた藤井くんに感謝しています」
「28という完全数は自分は一番好きな数字。それが1位でなくなるのは寂しいですが,凡人が運だけで作った記録を,天才が実力で抜いたのは将棋界に取ってよいこと」コメントがいちいち面白く,また神谷の優しい人柄が表れていて気持ちが良かった。」
将棋世界2017年9月号に続き,興味深いバックステージ情報だ。
将棋世界2018年7月号
「--将棋大賞では,特別賞や新人賞を受賞しました。段位も通常の棋士が歳月をかけて重ねるステップを一気に駆け上がった(インタビュー後,竜王戦ランキング戦5組準決勝で船江恒平六段に勝ち,七段昇段を果たした)。
「賞は嬉しく思いましたし,賞をいただいたからには今後活躍していかなくちゃいけない,とも思います。段位に関しては全く気にしてはいませんし,目標にはしていません。昇段より,もっと上を目指したい思いがあります」」
優秀な人は,賞や肩書きや段位や学位を気にするでも積極的に取得するでもなく,気づいていたら獲得したり取得したりしているものなのだろうと思う。自然に歩いていた道を振り返った時に,足跡に花が咲いたり,道端の人が喜んだり,私も一緒に歩きたいと言って誰かがついてきたりするような人生を生きたいものである。
将棋世界2018年10月号
「--才能があってもダメになるタイプはいますか。
畠山 います。まず,勝負に向いていない子。将棋は全勝の世界じゃない。誰でも負けると心が折れます。その痛みに耐えられないタイプはきつい。先崎学九段が書いていましたが,目の前の相手が死に物狂いで自分を負かしにくる。その日常の中で,何かがなければ自分を支えきれなくなると。
脇 脇道にそれちゃう子もいる。18,19になると将棋の他の世界をどうしてもみる。そこで楽しいことを知っちゃうと伸びなくなる。本当はその前に四段になるのがいちばんいいんだけど。
井上 僕らの時代は才能か努力か。そのどちらかがあればプロになれた気がする。いまはその両方ないときつい。
畠山 あと,最近は奨励会から学校の勉強に向かっちゃうタイプもいる。学校の勉強も競争だけど,そちらの方が努力が報われやすい面もある。将棋も有望だけど,進学を選んだ子が結構います。」
「何かがなければ自分を支えきれなくなる」という知見は,信念のようなサムシングを持つことの重要性を指摘していると言える。羽生九段はかつて,加藤九段の姿勢を見て長年将棋を指し続けることの偉大さを指摘していた。大学の世界では研究が好きなのか権威になることが好きなのか分かれるところがある。そして,それらのうちのどちらかが高尚であるとか優等であるとかということはない。
将棋世界2019年2月号
「タイトル戦における食事の話になると,佐藤(天彦)名人は2日目にはカレー,おやつにはショートケーキを頼むようにしているそうだ。その理由として食事を決めるのは検分のある2日前のため,2日後に何を食べたい気分なのか読みづらく,無難なメニューを選ぶことにしていると話す。ちなみに佐藤名人だけでなく斎藤王座や藤井七段もカレーが好きとのことで,トップ棋士からの人気の高さが表れた。」
森内九段もカレー好きであることが知られ,ファンとカレーを食べるイヴェントを開催している。
将棋世界2019年3月号
「久保はソフトの評価についてどう考えているのだろうか。「振り飛車のどこが悪いのか,その点数の差を理解できるほど私は将棋が強くありませんから」
久保もソフトを使っているが,安易な依存への警鐘に聞こえた。そして「振り飛車とか居飛車とか,戦法で勝負は決まらない。将棋は強いほうが勝つんです」。きっぱりした口調だった。」
「将棋は強いほうが勝つんです」は名言である。
将棋世界2019年6月号
「渡辺 王将戦を勝ってダブルタイトル戦は終わってしまいましたが,相変わらずの過密スケジュールだったので,いろいろと気を遣うことはありました。本局の移動日は普段よりもかなり早く起床しています。6時くらいでしょうか。これは意図的で,対局の前日をあえて睡眠不足にすることによって,夜によく眠る作戦です。
睡眠不足で対局に臨むと集中できないし,考えがまとまらない。対局日の夜は頭が冴えていて眠れないので,対局が続くと生活のリズムが狂いやすく,寝不足に陥る可能性があるんです。
ところがせっかく作戦を立てたのに,それほど眠れませんでした(笑)。4,5時間でしょうか。これで対局するのはかなり厳しいですが,仕方がありません。それにしても,30代になってからは対局前日に眠れなくなりました。20代の頃はぐーぐー寝ていたのですが。」
私が知っている教授に,寝不足で海外出張に出発し,機内で睡眠をとってジェットラグを軽減する方略を採用する教授がいた。私は出張を含む海外旅行では現地に到着した初日の夜は猛烈な熟睡となるのでジェットラグはあまり感じない。
将棋世界2019年6月号
「81年12月,棋士への道を描いた羽生は当時棋士の二上達也に入門する。6年生になった翌4月には最後の機会となった小学生名人戦に参加する。NHKのスタジオで行われた準決勝・決勝には案の定と言うべきか,森内の姿もあった。
羽生の晴れ姿を見届けようと,八木下はスタジオまで足を運んで観覧席から見守った。すると
「なぜか準決勝の森内さんがものすごい早指しで,ちょっと驚いたんです」
後年,何度となく語られる逸話になるが,森内はディレクターの「リハーサル通りにお願いします」という指示を言葉通りに受け取り,指し手まで再現してしまう痛恨のミスを犯す。
「どこまで同じように指したらいいのかな・・・と思い始めたら間違えて(笑)。必敗になって汗が一気に吹き出してくる感覚は今でも覚えています。」」
森内九段の伝説のひとつだ。
将棋世界2019年8月号
「ここまで勝ち数を積み重ねられてきた要因はどういったところにあると思いますか。
「(羽生)もう30年以上やっているので,全ての対局を覚えていないですし,負ける時も結構あるので。修正とか反省はしないといけないとは思っているんですけど,ある程度,終わったところからは綺麗さっぱり忘れて次に臨んでいくということは,長く続けていく上で大切なことなのかなと思っています」」
私は「終わったところからは綺麗さっぱり忘れて次に臨んでいく」ことができないタイプなので参考にしてどうにか行動変容をしたい。できないならば,心理学が教えてくれるように,それを受容してその対策を十分に講じて生きていきたい。
将棋世界2019年12月号
「開幕直前のインタビューで,木村は揺れ動く思いを隠そうとしなかった。
「もう挑戦することなんてないと思っていたので,不思議な感覚です。挑戦者に向いている人間かわからないので,勝ちます,なんて自分を鼓舞することは言えません」
「豊島さんは充実している人ですからね。弱さや脆さがあるのかなんて,ちょっとわかりません」
「不安と,やれる,できるんだという思いが交錯しています。」
「1回で獲れちゃう人もいるけど,私は何回やっても獲れないから。自分には獲れないんじゃないかってどこかで思う気持ちと・・・なら記録を破ってやろうかっていう気持ちと。運命だなんて認めるのはとても嫌ですよ」
「40代半ばになりましたし,自分にも他にできることはないのか,なんて考えたりもしましたけど・・結局これ(将棋)しかない。逃げられないんです」
「昔,羽生さんから『将棋を嫌になったことなんてない』って聞いたことがあるんです。笑うしかなかった。すごい人だなあと思いますよ」
「苦しみ抜かなきゃいけないけど,耐えられるのかな,という怖さもあります。」
「山ほど棋士がいる中で,私を応援してくれる人もいる。もし獲れたら,伝えられることも増えるでしょう」
「悔いは残したくないです。いつも悔いだらけだから」
再び大舞台に上る者の本当の声だと思った。」
天才が集まるプロの世界で勝つことがいかに厳しいかを感じられる木村九段の知見である。
将棋世界2020年1月号
「--永瀬さんは後輩に厳しいので「軍曹」と呼んだと言っていました。鈴木大介さんは最初は鬼軍曹と呼んだそうです。妹弟子の加藤桃子さん(現女流三段)の奨励会時代の厳しい指導は有名です。桃子さんが研究会で「ここでこう指したらどうするんですか」と質問すると,「それは3ヶ月前に教えたはずです。覚える気がないならやめなさい」と言った。
永瀬 まあ,若かったですからね。10年たったら時効でしょう。」
この知見は過去のブログでもフィーチャーした。琉球大学では同じ質問の提出や確認の連続が日常茶飯事である。
将棋世界2020年1月号
「永瀬 二つのタイトル戦の敗戦で自分にとって財産になり,その経験が活きました。バナナをたくさん頼んだのは,前のタイトル戦の時,お寿司を食べたかったけど注文できなかったから。バナナなら,どこにいっても用意してもらえると思った。」
上述のカレーに関する知見と同等の知見である。私は海外旅行を繰り返す中で,国に依っては日本のように物が簡単に手に入らないことを学んだ。そして,国内で準備できるものは準備して出発するので,たくさんのものを持って旅行するようになった。なお,日本は豊かな国なので,国内旅行は身軽に出かけて問題ない。
将棋世界2020年2月号
「--日々の時間の使い方を含めて,いまのご自身が勝てているという状況に対する,理由づけはできていますか?
「できていますね。私だけでなく現在勝ちまくっている20代-30代,たとえば広瀬さん,豊島さん(将之竜王・名人),永瀬さん(卓矢二冠),あとは年下ですが藤井さんは,将棋の系統が皆一緒だと思います。序盤の研究をきっちり詰めて,あとは中終盤でしっかり勝ち切る。それができる人間が,結果を出しているということです」
--それをどうやったら実現できるかということについて,お聞かせください。
「結局は人それぞれの才能かなというと,永瀬さんに猛反論されそうですね(笑)。でも私は,たとえばサッカーのメッシやロナウドが,なぜあのようなプレーできるのかということには,興味がありません。結局のところ,基本的な身体能力が違うんだと思っています」
--確かに一流アスリートのやり方を真似しても,誰もが一流になれるといことにはなりません。
「ただ,トップアスリートの日々の生活パターンは,聞いてみたいですね。普段どういう心がけで過ごしているのか,どのようなマイルールがあるのか,などです。才能というか,自分の適性を生かせる環境を作れるかどうかということが,大事なのではないかと考えています。」」
身も蓋もない話だが,私も同意する。遺伝と環境の相互作用という知見は心理学ではお馴染みである。私はどれだけ努力しても100mを10秒で走ることは不可能であり,円周率を何百桁も暗唱することは不可能である。凡人として天才や秀才の業績を讃え,そこからわずかでも学べることを学び,何かの形で社会に影響を与えたいという思いがある。
将棋世界2020年6月号
「桐山 将棋への思い
私が大阪の奨励会に入った時に,1つ上に明らかに私よりも才能がある人がおったんですよ。その人が1年ほどして急に辞めてしまった。なんで辞めたかというのは,いつまでたっても思います。将棋が好きでないんですかね。
私みたいに,いつ辞めるかみたいなほうが続いて。7級で1年9ヶ月,6級で1年6ヶ月もかかった。自分は将棋が好きでたまらなくて,将棋の道しかないと思っています。でも,そうじゃない人もおるということですよね。」
人間生活は才能と適性と志向のマッチングが重要だと私は考えている。
将棋世界2020年6月号
「当時の大山はよくこう言っていたそうだ。「七番勝負で言ったら,4勝3敗か4勝2敗で勝つのが私の仕事。勝率で言ったら,6割ちょっとだけど,7割,8割勝っても,タイトルを取らなければしょうがないでしょう」」
心理学の敏感期の知見に関連する。押し並べて良好な状態を継続するのではなく,特定の時期に特異的に良好な状態であることが重要なことがある。
将棋世界2020年10月号
「14歳のとき,最年少タイトルには挑戦したいとおっしゃっていましたが,17歳のうちにタイトルを取れました。
藤井 そんなこと言いましたか(笑)。最近は,ちゃんと実力をつけなければタイトルは取れないと思っていました。なので,記録の意識はありませんでした。」
羽生九段もそうだったように,将棋の世界では誤認の形を採用しながら意見が調整されることがある。
将棋世界2020年11月号
「100期という節目は,羽生九段にとってどのようなものでしょうか。
「(達成は)タイトル戦に出ないとどうにもならないですし,最近はその機会すらずっとなかったので,考えることもなかったというのが実感です。ただ,非常に大きな記録が懸かるシリーズですので,その舞台にふさわしい将棋を指したいと思っています」
今季七番勝負に向けての意気込みをお願いいたします。
「久しぶりのタイトル戦ですので,張り切って臨みたいと思っています。ファンの皆さんに楽しんでもらえる将棋を指せるように力いっぱいやりますので,よろしくお願いいたします。」」
タイトル戦の常連でなくなった羽生九段は徐徐にタイトルに対して明確に言及するようになっていると私は認識している。
将棋世界2020年11月号
「木村(義雄)のエピソードはたくさんあるが,その一つを挙げる。名人時代,ある八段との対戦で,相手が詰みのなさそうな木村の玉に王手を掛けてきたことがある。局面が負けなのでトン死を狙ったのだ。木村はなんと,対応を間違えて詰まされてしまったのだが,局後,相手を一喝した。「〇〇君,君は詰まぬとわかっていながら,僥倖を頼んで王手をしたな。それが八段のやることか」
詰まない玉に対して王手をするのがいいか悪いかは別にして,名人時代の木村は,相手が正義にもとるような対局態度を取ると,それを面と向かって批判することが度々あった。トン死を食って,相手を一喝する。これは,「将棋の神様」ともいわれた,木村でなければできないことだ。
ちなみに,中学生棋士として29連勝したときの藤井二冠はよくインタビューで,「僥倖でした」と答えて周りを驚かせていた。本人に聞いたことがあるが,残念ながら,「僥倖」は,木村名人の本を読んで知った言葉ではないようだ。」
一件落着。
将棋世界2020年12月号
「渡辺 でも30代で真打になられる方も多いですよね。そこからまだ「20年」と考えたら,ちょっと気が遠くなります。僕なんかはもう,将棋指しのキャリアとしては後半なので,一仕事を終えた気になっているくらいなので(笑)。
伯山 え,もう引退を考えてるんですか?
渡辺 いや,引退はわからないですけど,名人も獲ったし,やることはやりましたからね。もっと早く藤井くんが出てきちゃっていたら,「まだ俺,存分にやってないよ」となるかもしれないですけど。
伯山 ははは!(笑)
渡辺 あとはいま自分の残っているお釣りで,どれだけ勝負できるかですね。もう年齢的にも上がり目はないので。」
私はこの「お釣り」の知見が好きである。
将棋世界2021年1月号
「また佐藤会長は,20歳の時に王位戦に初挑戦した思い出を引き合いに出し,「(自分は)当時の谷川王位の振る舞いを学び,それを受け継ぎながらやってきたことを思い出しました。藤井王位も先輩たちのいいところや素晴らしいと思うところを吸収しながら,これからも将棋の無限の可能性に挑戦し,どんな棋士も敵わないというくらいの境地を目指して,将棋界のレベルをひらいていただきたい」と激励した。」
先人の知恵や知見は貴重である。
将棋世界2021年1月号
「また記者会見では,自分の中の目標は頂点とすると今は何合目かという質問に対し,「将棋というのは,どこまでいってもここが頂点ということはないと思うので,どこまでいっても変わらず強くなるために努力するということが大切だと感じています」と答えた。」
藤井二冠はデビュー当時からすかし上手である。他に恋愛に関する質問等を受けた場面を知っているが,論点をずらして乗り切って(?)いた。
将棋世界2021年3月号
「ゲームの取材で糸谷さんが昔「最終的に「相手をミスに追い込む」というのが対人ゲームだと思っています」と話されていたのが印象的でした。将棋にも似たところがあるようにも感じました。
「それはある程度通じるところもありますが,ゲームのほうが大きいんですよね。将棋でいう,持ち時間が短いですから。将棋は世の中にある対戦ゲームの中で,ものすごく(選択する)時間が長いんです。皆さんミスをしないんですよね。普通のゲームだと誰でもミスをしていると思うんです。なので,将棋はものすごく正確性が大事で,悪くなったら逆転するためにミスを誘いに行くというところはありますね。」」
物事の本質を把握することは重要だ。将棋のトッププロもゲームのトップゲーマーも,ルールの解釈がスマートである。
将棋世界2021年6月号
「渡辺は棋王9連覇を達成すると同時に,通算獲得タイトル数を28として,羽生善治九段の99期,大山康晴十五世名人の80期,中原誠十六世名人の64期に続く単独4位になった。だが局後のインタビューにて「上の3名にはまず届かないので,長期的な目標を考えにくくなった」と語っている。」
自身の能力や時代を含め,人生は運に左右されることが多分にある。
2021-07-01
最近のおすすめ15曲(2021年7月)
最近のおすすめ15曲をコメントをひとことだけ添えて提示する。書いている与太はあくまでもおすすめする中での戯れである。それは,テレビ朝日番組「アメトーーク!」の「何何大好き芸人」において,出演者の芸人が時折,当該の対象が好きであるにも関わらず辛辣なことを言ったり話が脱線したりする行動に似ている。好きだからこそあれこれ言いたいことがある。
--
1. BTS - Butter
Music Videoを観て「BTSのメンバーはみんな細いなあ。」と思って鏡を見たら自分の方が細かった。
2. Camila Cabello - Real Friends
Camilaの声も文化財。
3. DallasK, Nicky Romero & XYLO - Sometimes
ヴォーカルのパート分けが最高。
4. Don Diablo - Save a Little Love
Music Videoにタイトルを付けるなら「じっとしていられない大人」。
5. Don Diablo & J.L.V. - Problems (feat. John K)
幼少の頃「夜に口笛を吹くと蛇が出る。」みたいなパタンの躾をする友人の親をロクでもねえ大人だなと思っていた。
6. Ella Eyre - L.O.V.(e).
思春期の子どもに聴かせると面倒なことになる。
7. Justin Mylo - Cheap Motel
Neither do I.
8. Kygo & Sasha Sloan - I'll Wait
加藤鷹が具体的な数字の提示は経験人数を信用してもらいやすくなると提示していたし,将棋のプロ棋士が資料を参照することなく過去の棋戦の詳細を解説する時には認知能力に感心するが,歌詞で具体的な日付を歌うことは何かに有意な影響を及ぼすだろうか。
9. Little Mix - Black Magic
寝起きで聴いたらワンチャンCyndi Lauperの「Girls Just Want To Have Fun」と誤認する。
10. Martin Jensen & RANI - At Least I Had Fun
That's good, indeed, indeed.
11. Mike Williams - Day Or Night
Music Videoは洗濯洗剤のCMに使用可能。
12. RILEY & Loote - Tell Me Why
「b****」とか「f***」とか「s***」という単語を使えば悪そうな修飾ができると考えている歌手やラッパーやDJは**。
13. R3HAB & Headhunterz - Won't Stop Rocking (Radio Edit)
16和音対応の携帯電話が発売された時の感動を思い出した。
14. R3HAB & Lia Marie Johnson - The Wave
Yeah Yeah ♪( ´θ`)/ Yeah Yeah ♪( ´θ`)/
15. Tungevaag - Peru
Peruに恨みでもあるのか。