幼稚園教育要領および幼稚園教育要領解説は,「教育基本法」を抄録して言及している。教育基本法「第3章幼稚園」「第23条幼稚園における教育は,前条に規定する目的を実現するため,次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。」には,「4日常の会話や,絵本,童話等に親しむことを通じて,言葉の使い方を正しく導くとともに,相手の話を理解しようとする態度を養うこと。」とある。これに対して,幼稚園教育要領解説「第1章総説」「第2節教育課程の編成」「1教育課程の編成の基本」には,「幼稚園では,幼稚園教育要領第1章総則の第1に示す幼稚園教育の基本に基づき,幼稚園生活を展開し,その中で幼児に育つことが期待される心情,意欲,態度を育成していく。幼稚園は,そのことにより,学校教育法第23条の幼稚園教育の目標を達成するよう努めなければならない。幼稚園においては,幼稚園教育の目標に含まれる意図を十分に理解して,幼児の健やかな成長のために幼児が適当な環境の下で他の幼児や教師と楽しく充実した生活を営む中で,様々な体験を通して生きる力の基礎を育成するようにすることが重要である。」とある。
幼稚園教育要領の絵本に関する記述および幼稚園教育要領の絵本に関する記述に対する幼稚園教育要領解説の言及は次の通りである。幼稚園教育要領「第2章ねらい及び内容」「言葉」「1ねらい」には,「(3)日常生活に必要な言葉が分かるようになるとともに,絵本や物語などに親しみ,先生や友達と心を通わせる。」とある。これに対して,幼稚園教育要領解説「第2節各領域に示す事項」「4言葉の獲得に関する領域」「言葉」には,「幼児は,教師や友達と一緒に行動したりやりとりしたりすることを通して,次第に日常生活に必要な言葉が分かるようになっていく。また,幼児が絵本を見たり,物語を聞いたりして楽しみ,そこで想像上の世界や未知の世界に出会い,様々な思いを巡らし,その思いなどを教師や友達と共有したりすることが大切である。」とある。幼稚園教育要領「第2章ねらい及び内容」「言葉」「2内容」には,「(9)絵本や物語などに親しみ,興味をもって聞き,想像をする楽しさを味わう。」とある。これに対して,幼稚園教育要領解説「第2章ねらい及び内容」「第2節各領域に示す事項」「4言葉の獲得に関する領域」「言葉」には,「幼児は,絵本や物語などで見たり,聞いたりした内容を自分の経験と結び付けながら,想像したり,表現したりすることを楽しむ。一人で絵本を見て想像を巡らせて楽しむこともあれば,教師が絵本や物語,紙芝居を読んだり,物語や昔話を話したりすることもある。皆でビデオやテレビ,映画などを見ることもある。家庭でもこのような絵本や物語を保護者に読んでもらったり,テレビやビデオを見たりするが,幼稚園で教師や友達と一緒に聞いたり,見たりするときには,皆で同じ世界を共有する楽しさや心を通わせる一体感などが醸し出されることが多い。また,家庭ではどちらかというと自分の興味のあることを中心に見たり,読んだりすることになるが,幼稚園では教師や友達の興味や関心にも応じていくので幅の広いものとなり,家庭ではなかなか触れない内容にも触れるようになっていく。このようにして,教師や友達と共に様々な絵本や物語,紙芝居などに親しむ中で,幼児は新たな世界に興味や関心を広げていく。絵本や物語,紙芝居などを読み聞かせることは,現実には自分の生活している世界しか知らない幼児にとって,様々なことを想像する楽しみと出会うことになる。登場人物になりきることなどにより,自分の未知の世界に出会うことができ,想像上の世界に思いを巡らすこともできる。このような過程で,なぜ,どうしてという不思議さを感じたり,わくわく,どきどきして驚いたり,感動したりする。また,悲しみや悔しさなど様々な気持ちに触れ,他人の痛みや思いを知る機会ともなる。このように,幼児期においては,絵本や物語の世界に浸る体験が大切なのである。」とある。幼稚園教育要領「第2章ねらい及び内容」「言葉」「3内容の取扱い」には,「(3)絵本や物語などで,その内容と自分の経験とを結び付けたり,想像を巡らせたりするなど,楽しみを十分に味わうことによって,次第に豊かなイメージをもち,言葉に対する感覚が養われるようにすること。」とある。これに対して,幼稚園教育要領解説「第2章ねらい及び内容」「第2節各領域に示す事項」「4言葉の獲得に関する領域「言葉」」には,「幼児は,その幼児なりの感じ方や楽しみ方で絵本や物語などの世界に浸り,その面白さを味わう。絵本の絵に見入っている幼児,物語の展開に心躍らせている幼児,読んでくれる教師の声や表情を楽しんでいる幼児など様々である。教師は,その幼児なりの感じ方や楽しみ方を大切にしなければならない。また,幼児は,絵本や物語などの中に登場する人物や生き物,生活や自然などを自分の体験と照らし合わせて再認識したり,自分の知らない世界を想像したりして,イメージを一層豊かに広げていく。そのために,絵本や物語などを読み聞かせるときには,そのような楽しさを十分に味わうことができるよう,題材や幼児の理解力などに配慮して選択し,幼児の多様な興味や関心に応じることが必要である。幼児は,絵本や物語などの読み聞かせを通して,幼児と教師との心の交流が図られ,読んでもらった絵本や物語に特別な親しみを感じるようになっていく。そして皆で一緒に見たり,聞いたりする機会では,一緒に見ている幼児同士も共感し合い,皆で見る楽しさを味わっていることが多い。そうした中で,一層イメージは広がっていくので,皆で一緒に見たり,聞いたりする機会にも,落ち着いた雰囲気をつくり,一人一人が絵本や物語の世界に浸り込めるようにすることが大切である。また,幼児は,教師に読んでもらった絵本などを好み,もう一度見たいと思い,一人で絵本を開いて,読んでもらったときのイメージを思い出したり,新たにイメージを広げたりする。このような体験を繰り返す中で,絵本などに親しみを感じ,もっといろいろな絵本を見たいと思うようになっていく。その際,絵本が幼児の目に触れやすい場に置かれ,落ち着いてじっくり見ることができる環境にあることで,一人一人の幼児と絵本との出会いは一層充実したものとなっていく。そのために,保育室における幼児の動線などを考えて絵本のコーナーを作っていくようにすることが求められる。」とある。
幼稚園教育要領には記述がないが,幼稚園教育要領解説において絵本に関する記述があるものは次の通りである。幼稚園教育要領解説「第2章ねらい及び内容」「第2節各領域に示す事項」「3身近な環境とのかかわりに関する領域「環境」」には,幼稚園教育要領「第2章ねらい及び内容」「環境」「2内容」「(9)日常生活の中で簡単な標識や文字などに関心をもつ。」に対して,「絵本や手紙ごっこを楽しむ中で自然に文字に触れられるような環境を構成することを通して,文字が様々なことを豊かに表現するためのコミュニケーションの道具であることに次第に気付いていくことができるよう,幼児の発達に沿って援助していく必要がある。」とある。また,幼稚園教育要領「第2章ねらい及び内容」「環境」「3内容の取扱い」「(4)数量や文字などに関しては,日常生活の中で幼児自身の必要感に基づく体験を大切にし,数量や文字などに関する興味や関心,感覚が養われるようにすること。」に対して,「数量や文字は,記号として表すだけに,その働きを幼児期に十分に活用することは難しい。しかし,例えば,数字や文字などに親しんだり,物を数えたり,長さや重さに興味をもったり,絵本や保育室にある文字表現に関心を抱いたりすることは,幼児にとって日常的なことである。数量や文字に関する指導は,幼児の興味や関心から出発することが基本となる。その上で,幼児の遊びや生活の中で文字を使ったり,数量を扱ったりする活動が生まれることがあり,このような活動を積み重ねることにより,ごく自然に数量や文字にかかわる力は伸びていくものである。」とある。
幼稚園教育要領解説「第2章ねらい及び内容」「第2節各領域に示す事項」「4言葉の獲得に関する領域「言葉」」には,幼稚園教育要領「第2章ねらい及び内容」「言葉」「2内容」「(4)人の話を注意して聞き,相手に分かるように話す。」
に対して,「幼稚園生活では,人の話を聞いたり,自分の考えや気持ちを人に伝えたりする場面がたくさんある。例えば,教師の説明を聞いたり,絵本を読むのを聞いたり,遊びの中で友達の要求や考えを聞くこともある。ときには,幼稚園を訪問してきた人々の話を聞くこともある。このような場面で幼児が話を聞くときは,初めは静かに聞いたり,話の内容のすべてに注意を向けて聞いたりしているとは限らない。特に,3歳児は話を聞いていても,自分に興味のある事柄にしか注意を向けないこともあるし,関心のあることが話されるとすぐに反応し,静かにしていられなくなることもある。また,友達の話を聞かないで,友達ともめることもある。このような話を聞くことにかかわる様々な体験を積み重ねることを通して,相手が伝えようとしている内容に注意を向けることへの必要感をもち,次第に幼児は話を聞けるようになっていくのである。」とある。
同じく,幼稚園教育要領解説「第2章ねらい及び内容」「第2節各領域に示す事項」「4言葉の獲得に関する領域「言葉」」には,幼稚園教育要領「第2章ねらい及び内容」「言葉」「2内容」「(7)生活の中で言葉の楽しさや美しさに気付く。」
に対して,「幼児は,幼稚園生活において絵本や物語などの話や詩などの言葉を聞く中で,楽しい言葉や美しい言葉に出会うこともある。教師や友達が言葉を楽しそうに使用している場面に出会い,自分でも同じような言い方をし,口ずさむことでその楽しさを共有することもある。また,教師の話す言葉に耳を傾けることにより,言葉の響きや内容に美しさを感じ,改めて言葉の世界の魅力にひかれることもある。さらに,同じ意味を表す言葉であっても,その表現の仕方を相手に応じて変化させることが必要な場合もある。例えば,友達を呼ぶときも名前を呼んだり,愛称を呼んだりするなど,様々な呼び方がある。相手や状況に応じて言葉を使い分けることが,言葉の楽しさや美しさに通じることがある。」とある。
同じく,幼稚園教育要領解説「第2章ねらい及び内容」「第2節各領域に示す事項」「4言葉の獲得に関する領域「言葉」」には,幼稚園教育要領「第2章ねらい及び内容」「言葉」「2内容」「(10)日常生活の中で,文字などで伝える楽しさを味わう。」
に対して,「幼稚園生活の中で,名前や標識,連絡や伝言,絵本や手紙などに触れながら,文字などの記号の果たす機能と役割に対する関心と理解が,それぞれの幼児にできるだけ自然な形で育っていくよう環境の構成に配慮することが必要である。また,それぞれの幼児なりの文字などの記号を使って楽しみたいという関心を受け止めて,その幼児なりに必要感をもって読んだり,書いたりできるような一人一人への援助が大切である。」とある。
同じく,幼稚園教育要領解説「第2章ねらい及び内容」「第2節各領域に示す事項」「4言葉の獲得に関する領域「言葉」」には,幼稚園教育要領「第2章ねらい及び内容」「言葉」「3内容の取扱い」の「(2)幼児が自分の思いを言葉で伝えるとともに,教師や他の幼児などの話を興味をもって注意して聞くことを通して次第に話を理解するようになっていき,言葉による伝え合いができるようにすること。」
に対して,「活動を始める前やその日の活動を振り返るような日常的な集まり,絵本や物語などのお話を聞く場面などを通して,皆で一緒に一つのまとまった話を集中して聞く機会をもつことで,聞くことの楽しさや一緒に聞くことで生まれる一体感を感じるようになる。」とある。
幼稚園教育要領解説「第2章ねらい及び内容」「第2節各領域に示す事項」「5感性と表現に関する領域「表現」」には,幼稚園教育要領「第2章ねらい及び内容」「表現」の「感じたことや考えたことを自分なりに表現することを通して,豊かな感性や表現する力を養い,創造性を豊かにする。」, また,「1ねらい」「(1)いろいろなものの美しさなどに対する豊かな感性をもつ。」,「(2)感じたことや考えたことを自分なりに表現して楽しむ。」,「(3)生活の中でイメージを豊かにし,様々な表現を楽しむ。」
に対して,
「幼児は音楽を聴いたり,絵本を見たり,つくったり,かいたり,歌ったり,音楽や言葉などに合わせて身体を動かしたり,何かになったつもりになったりなどして,楽しんだりする。これらの表現する活動の中で,幼児は内面に蓄えられた様々な事象や情景を思い浮かべ,それらを新しく組み立てながら,想像の世界を楽しんでいる。また,自分の気持ちを表すことを楽しんだり,表すことから友達や周囲の事物との関係が生まれることを楽しんだりもする。」とある。
同じく,幼稚園教育要領解説「第2章ねらい及び内容」「第2節各領域に示す事項」「5感性と表現に関する領域「表現」」には,幼稚園教育要領「第2章ねらい及び内容」「表現」「3内容の取扱い」「(1)豊かな感性は,自然などの身近な環境と十分にかかわる中で美しいもの,優れたもの,心を動かす出来事などに出会い,そこから得た感動を他の幼児や教師と共有し,様々に表現することなどを通して養われるようにすること。」
に対して,「幼児の豊かな感性は,幼児が身近な環境と十分にかかわり,そこで心を揺さぶられ,何かを感じ,考えさせられるようなものに出会って,感動を得て,その感動を友達や教師と共有し,感じたことを様々に表現することによって一層磨かれていく。そのためには,幼児が興味や関心を抱き,主体的にかかわれるような環境が大切である。このような環境としては,幼児一人一人の感動を引き出せる自然から,絵本,物語などのような幼児にとって身近な文化財,さらに,心を弾ませたり和ませたりするような絵や音楽がある生活環境など幅広く考えられる。」とある。
幼稚園教育要領解説「第3章指導計画及び教育課程に係る教育時間の終了後等に行う教育活動などの留意事項」「第3節特に留意する事項」「2障害のある幼児の指導」には,幼稚園教育要領「第3章指導計画及び教育課程に係る教育時間の終了後等に行う教育活動などの留意事項」「第1指導計画の作成に当たっての留意事項」「2特に留意する事項」「(2)障害のある幼児の指導に当たっては,集団の中で生活することを通して全体的な発達を促していくことに配慮し,特別支援学校などの助言又は援助を活用しつつ,例えば指導についての計画又は家庭や医療,福祉などの業務を行う関係機関と連携した支援のための計画を個別に作成することなどにより,個々の幼児の障害の状態などに応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的,組織的に行うこと。」
に対して,「幼稚園において障害のある幼児を指導する場合には,幼稚園教育の機能を十分生かして,幼稚園生活の場の特性と人間関係を大切にし,その幼児の発達を全体的に促していくことが大切である。そのため,幼稚園では,幼児の障害の種類や程度などを的確に把握し,個々の幼児の障害の状態などに応じた指導内容・指導方法の工夫について検討し,適切な指導を行う必要がある。その際,教師は,ありのままの幼児の姿を受け止め,幼児が安心し,ゆとりをもって周囲の環境と十分にかかわり,発達していくようにすることが大切である。例えば,弱視の幼児がぬり絵をするときには輪郭を太くするなどの工夫をしたり,難聴の幼児に絵本を読むときには教師が近くに座るようにして声がよく聞こえるようにしたり,肢体不自由の幼児が興味や関心をもって進んで体を動かそうとする気持ちがもてるように工夫したりするなど,その幼児の障害の種類や程度に応じた配慮をする必要がある。また,障害のある幼児とない幼児が一緒に遊ぶときには,幼児同士がかかわりながら,それぞれの幼児が遊びを楽しめるように適切な援助をする必要がある。」とある。